「戦術行動④ 突破・前編」
——突破の概念——
突破とは敵の防御を破壊するために、戦力を一箇所に集中して攻撃し、敵の分断を図る機動のことを指す。
もし我軍が突破されてしまえば、味方と分断されるばかりか、敵に側面、後背、後方の緊要地形、補給基地、司令部などに突撃されてしまうため、敗北が濃厚となってしまう。
実際の戦闘において指揮官が無能であることは、教育の行き届いた時代であればあるほど少ない。よって迂回や包囲は難しくなるため、最もよく用いられる戦術が突破となる。また包囲や迂回に持ち込む場合にも、それを悟られないために常に突破に持ち込めるように見せかけなくてはならない。自衛隊でも部隊が最初に指導される戦術は突破だという。
何にせよ、「突破が効率的にできない部隊は役に立たない」のだ。
——突破の効果——
突破が我軍にもたらす効果は計り知れない。主な効果は六つだ。
①敵の分断
分断された敵は分断される前のように側面を守る兵はおらず、戦力も半減し、包囲に持ち込みやすい非常に弱体な敵となる。また敵は分断された味方と連絡を取るのが難しく(または出来なく)なり情報的に切り離される。
②敵戦線に側面が増える。
敵は分断されているため、中央に新たな側面が二つ増える。ここを着けば片翼包囲と同様の効果が期待できるのだ。
③敵後方の重要部へ侵攻できる。
敵の司令部、補給基地、後方段列(砲兵隊)など無防備な敵に対して、攻撃を加えられるようになる。電撃戦のように、敵前線を突破して後方を制圧し、戦うことなく前線部隊を無力化するという作戦も可能だ。
④敵の予備を使わせることが出来る。
通常、部隊にはここぞという場面で動かす予備部隊が司令部付で存在する。予備を使用するタイミングが勝敗に直結するといっても過言ではない。予備は最後の一押しや、突破された戦線の穴埋めに用いられるため、突破してしまえば敵の予備部隊が出張ってくるのは当然だ。
これで食い止められてしまうと突破は失敗……というわけでもない。敵の予備がすでに前線へ投入されているため、敵の予備はいない、または数を減らしているはずだ。こうなれば別の箇所で突破に成功すればもう相手に余力はない。何より相手は予備を消費したのに対し、『こちらは予備を消費していない』のだ(そもそもこちらに予備がいないかもしれないが)。その予備の使用方法は自由だ。使わせられた相手に対して、自由に使えるこちらが有利となるのは言うまでもない。
とはいえ突破を成功させるために予備部隊をそこに投入する場合も多い。そうしないと相対的有利が作り出せず、失敗して壊滅しかねないからだ。
この他にも敵後方に進出した味方への補給路の確保や、心理的効果などを与えることも出来る。突破の成功がそのまま勝利につながるのだ。
——突破のリスク——
効果は絶大だが、迂回や包囲を超えるリスクがある。比喩的に言えば、硬い壁をパンチで突き破る力任せの戦術だからだ。成功しても失敗しても激しく消耗する。失敗した場合は我軍の最大戦力が壊滅してしまい、一転して危機に陥る、また突破を成功させるためには突破正面において相対戦力は九倍——最前線担当の大隊では十八倍、メインの突破を支援する助攻部隊で三倍——が必要だ。(相対戦闘力については次回)
実際、米軍の野戦教本では下記のよう明記されている。
「激烈な側面攻撃が不可能で、敵防御が引き伸ばされ過ぎて弱点が見受けられる時か、包囲攻撃が認められない、これらの場合に指揮官は突破を採用する」
つまり迂回、包囲が難しい場合に突破を採用すべしということだ。実際には突破しか選択肢がない場合が多いとはいえ、迂回や包囲の存在を忘れてはならない。
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