「戦闘力 〜ランチェスターの法則〜」


——二種類の戦闘力——


 戦闘力には、ある程度の数値化が可能な有形要素と、数値化が不可能な無形要素がある。有形要素は兵数、兵器の性能、補給物資の量、速度、地形などで、無形要素は精神力、指揮官の人望、運などだ。

 当初は無形要素が勝敗において高い比率を占めていたが、時代が進むに連れて有形要素の割合が強くなり、システム化された現代においては「戦闘において」有形要素の重要性は最大化された。

 もちろん士気の低い軍隊はマトモに戦うことができず、士気の高い部隊はより活躍するが、だからといって戦車に歩兵戦闘車が勝利することは滅多にない。古代においても兵数の優位はある程度絶対的な有利であった。

 とはいえ米軍がどれほど物量を投入してもベトナムに勝てなかったように、有形要素だけを重視しても戦争には勝てない。世論をはじめとした情報戦という無形要素の重要性は、いつにも増して高まってきている。


——戦闘力の構成要素——


 今日の米陸軍曰く、戦闘力を構成する要素は大まかに三つに分けられる。「リーダーシップ」「インフォメーション」「戦闘機能」だ。戦闘機能を細分化すると「機動」「作戦情報」「火力」「戦闘力維持」「ミッション・コマンド」「防護」まで分けることができる。


「リーダーシップ」は戦闘の無形要素に影響を与え、これがないとあらゆる有形要素を活かせない。部隊をよく統率する事で規律を保ち、あらゆる効率を高める。カリスマ性で味方の指揮を保ち、部隊の崩壊や混乱を防ぐ。



「インフォメーション」はコンピュータによる情報の可視化や通信手段といったもので、作戦の共同を表す。みんなに高性能な通信機器を持たせるほど、みんなに作戦の状況を伝えられればられるほど、戦闘力は高まる。


「移動・機動」はその名の通りだ。

「作戦情報」はインフォメーションに似ているし、実際区別が曖昧なのだが、より狭義の、偵察や情報解析といったものが含まれる。


「火力」はその名の通り、攻撃力のことだ。


「戦闘力維持」は兵站を中心としたもので、作戦行動による部隊の脱落が起きた時の補充、弾薬の補給といった各種要素を総合した概念だ。


「ミッション・コマンド」は作戦立案を表し、有効な作戦とその実現可能性のバランスを取るためのシステムを表す。


「防護」はその名の通り防御力だが、これは部隊の健全性や健康なども含まれる広義の概念だ。


 これらは理解し難いが、現代の米軍が特別情報と共同を重視しているのは分かるだろう。

 

——ランチェスターの法則・運動エネルギーの法則・戦闘力の運用——


 ランチェスターの法則とは、兵力と戦闘力の関係性を数理モデルに基づいて表した戦闘法則だ。一次法則と二次法則に分かれており、適用する範囲がそれぞれ異なる。


 近接武器を中心とした戦闘においては、一次法則を適用する。第一法則は一騎打ちの法則とも呼ばれ、一人一人の戦闘力が同じなら五人と三人で戦えば二人生き残るという法則だ。五人側の一人一人の戦闘力が敵の二倍なら、三人〜四人が生き残る計算になる。


 総合的な戦闘力で戦う近代戦においては、第二法則を適用する。これは単純な引き算ではなく、互いに二乗して引き算するというものだ。五人と三人で戦ったなら、二十五と九で引き算して十六を導き出し、これをルートになおす(つまり二乗して十六になる値にする)と四になる。五人の側が勝利し、四人生き残るということだ。


 実戦には役に立たないと思われがちだが、戦力の集中や各個撃破の重要性を科学的に論じる時によく用いられる法則のため、理解しておいて損はない。

 特に二次法則を活かすため、局所的な兵力優位を作るため、機動力を重視したのがナポレオンだ。彼は運動エネルギーの法則「戦闘力=兵力×速度の二乗×二分の一」を重視して機動し、交戦時においてランチェスターの第二法則を活かせるようにした。


 また戦闘力の上下に関して、日本海海戦で連合艦隊参謀を務めた秋山真之が興味深い講義をしている。彼は「戦闘力は集まれば強くなり、分散すれば弱くなる」「戦闘力は動かせば強化され、静止すれば弱化する」と言った。これは海戦における攻撃の優位を如実に表している。

 陸戦では地形や防御陣地の存在によって基本的に防御側優位だったが、戦車の登場によって必ずしもそうとはいえなくなった。



——相対戦闘力——


 これまでの要素を総合して、戦闘力を算出したとしよう。さて、その部隊が実際的に可能な任務はなんだろうか?


 戦史データから判断して、最少戦力比率は以下のようになる。


・遅滞行動を行う場合、彼我の戦力差は1:2


・周到な準備を行った陣地防御の場合、彼我の戦力差は1:3


・応急防御陣地における防御の場合、彼我の戦力差は1:2.5


・攻撃の場合は防御の逆を利用する。


・敵の攻撃に対して逆襲する場合、彼我の戦力差は1:1


 この相対戦力のデータに照らして、作戦の実現可能性を判断できる。とはいえあくまで目安に過ぎないことを忘れてはならない。

また突破正面に必要な相対戦力はこの程度ではない。詳しくは突破(前編)を参照されたし。

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