「戦術の十三条の原則」〜戦術立案の基礎〜

「戦術の原則」

 

 注・元伝令兵の著作を引き継いだ物のため、文体がこれまでと全く違っています。ご了承ください。

 

 (ここから引き継ぎ)

 

 

戦記物の主人公は、誰もが驚くような戦術で敵を撃破し、読者を楽しませてくれます。

 しかし、実際の指揮官はそれだけでは務まりません。

 戦記物を書く際、奇抜な戦術だけに囚われていては、作品のリアルさを知らず知らずのうちに損なってしまうかも知れないのです。


 そこでより実践的な指揮官の業務について、十三条の原則を利用してできる限りわかりやすく解説していきます。

 

 


 まず第一に、戦闘する部隊に必要なものは何でしょうか?


 もちろんいろいろと浮かびはしますが、『戦闘力』の他、それを維持するための食料や燃料などの『持続力』、敵と戦うところまで移動するための『機動力』。

 この三つが必須です。


 『戦闘力』はその名の通り、戦闘で勝つ力のことです。実力とも呼べます。

 戦闘機や戦車などの性能が良ければ高くなりますし、部隊の数が多くても高くなります。士気やる気や地形など、同じ部隊でも流動的な能力です


 これと対極に位置するのが『持続力』で、部隊の数が少ないほど高くなりますし、必要な燃料が少ないほど高くなります。

 尚、補給部隊の整備や補給拠点との距離によって補うことができます。

 

 『機動力』がないとそもそも部隊が戦闘するまでもなく迂回されてしまうので、運用方法によって必要性が変わります。数が少ないほど上昇するという点では『戦闘力』と対極に位置しますが、機動力が高いほど効率的に『戦闘力』を移動できるため、必ずしも対極には位置しません。



 指揮官は、自らの部隊の『戦闘力』『持続力』『機動力』を完璧に把握しなければ始まらない。

 孫子の兵法に言葉を借りると、「敵を知り己を知れば、百戦して危うからず」です。少なくとも自軍の能力を把握しておなければ戦闘に勝利はありません。


 これが戦術基礎の第一条。『自軍の能力を完璧に把握する』です。



 次に、指揮官なら確実に覚えておくべき定石の確認です。

 世界のあらゆる軍隊で教えられ、指揮官の基本的な選択肢になります。

 というか、実戦ではこの定石の全てをできる限り実践しなければなりません。


 その原則は、米軍に習えば九つ。


①【目標】

②【攻勢(主導)】

③【集中】

④【節用】

⑤【機動】

⑥【指揮の統一】

⑦【警戒】

⑧【奇襲】

⑨【簡明】


 全て重要なので、一つずつ解説します。

 しかし一応、上にある程重要な要素だと考えて間違い無いです。


『目標』は、何の為に戦うのか、ということです。

戦争では何をするにも目的が必要。

 例えばA地点をヒトマル以内に確保するとか、敵の攻勢を三時間遅らせるとか、具体的で簡潔なものでなくてはなりません。

 これがあれば、目的に繋がらない行動を考える必要がなくなります。

 逆に目的が決まっていないと、何をすべきなのか分からない他、味方との連携が取れません。


 これが、第二条『作戦の目的を具体的に決める』です。


『攻勢』は、自衛隊で主導と訳される通り、主導権の確保です。

 戦いは防御側の方が有利と思われがちですが、“『目的』がなく、『攻勢』に繋がらない防御に価値などありません”。

 何故なら、攻撃されれば敵は対応せざるおえません。その対応を考えている間に、攻撃側はまた別のことが考えられるのです。

 言い換えるなら、先制の原則でしょうか?

 常に自分のペースで戦いを進めれば、それだけで負けにくくなります。


 これが第三条、『何事も先制し、積極的に行動を起こす』です。


『集中』はそのまま、戦力は集中して運用することです。たとえ相手より全体の兵力で劣っていても、敵より兵力を一箇所に集め、分散している敵を各個撃破すれば勝利できます。10対5の戦力でも、敵が5部隊に分かれていれば、一つずつ倒して勝てるのです。

 また何より重要な目的、地点に兵力を結集することが大切です。独ソ戦で、ヒットラーはスターリングラードとレニングラードとモスクワに戦力を分散させ、結局どこも取ることができませんでした。「二兎追うものは一兎も得ず」という通り、戦力は集中して運用しなければなりません。


 これが第四条、『本当に大切な目的のために戦力を集中すること』です。



『節用』は、『集中』を実現するために必須な原則です。

 戦力を本当に必要なところに集めるため、大事でない場所は全て最低限の兵力にとどめなければなりません。例えば10の兵士がいた場合、国境は3ほどの兵士で薄く守り、敵が沢山押し寄せてきたところに『集中』して増援を派遣する方が効率的です。


 これが第五条、『重要な拠点以外は必要最低限の戦力で賄うこと』です。



『機動』は、戦力の移動を表します。これも『集中』を行うのにとても重要な要素で、戦力を〈必要な時に〉〈必要な量だけ〉〈必要な所に〉移動することをいいます。これが出来なければ『集中』する間も無く各個撃破されたり、敵の『集中』した戦力の餌食になってしまいます。


 これが第六条『必要な時に、必要な分だけ、必要なところに戦力を投射できること』です。


『指揮の統一』は最も分かりやすいです。誰の命令を聞くのか分からなければ、兵士は混乱してしまいます。誰の命令を一番聞かなければならないのか?

これを決めるのが階級制度なのです。


 これが第七条。『指揮官は一人!』です。


『警戒』は、運転でいう「もしも〜だったら」運転のことです。常に「こういう危険があるかもしれない」と想定し、それに備えます。例えば予備戦力。チャンスに雪崩込ませたり、何かあった時に即応させたりするための『警戒』戦力です。軍隊の少なくとも半分は、この予備である事が望ましいです。


 これが第八条、『もしもの為の予備戦力を持っておく』です。


『奇襲』はその名の通り、敵も思いもよらない攻撃をする事です。夜襲したり、隠していた部隊に側面を攻撃させたり、新兵器で攻撃したりなど、敵の予想もしない攻撃をする。拮抗する戦いや劣勢の戦いで、一気にケリを付けられるチャンスにもなります。


 これが第九条、『意表をつく攻撃で目的を達せよ』です。


 最後の『簡明』は、命令が分かりやすい事です。

 アルファ地点の監視カメラを3時五分2秒に破壊しろ。などと言われても混乱するだけです。四時までに、脅威を排除しA地点に潜入せよ。などの方が分かりやすいです。このように、やるべきことが何なのか? 末端の兵士にも理解できるよう命令すること。


 これが第十条、『命令は子供でも分かるように!』です。



 二条から十条までは、主に『戦闘力』と『機動力』についての原則です。では『持続力』はどうすれば確保できるのでしょう?


 持続力を保つには、補給線の安全が大切になって来ます。

 補給線が脅かされるということは、前線で戦う兵士に食料が届かなかったり、戦車に燃料が届かなかったりするかもしれない。という事になります。

 勿論兵士のやる気は削がれますし、補給が切られることは、そのまま包囲されたことを意味します。


 これが第十一条、『補給線の安全を確保する』です。


 例え戦線を大きく後退する事になっても、まだまだ前進できたとしても、第二条『目的』に反しないかぎり、補給が脅かされることは避けねばなりません。


 では次に、実戦での戦術です。

 先頭で勝利するのは、戦う“その瞬間の戦闘力”が敵より優っていることと、運が此方に味方している事が条件です。

 敵より戦闘力が高い状態を作り出すにはどうすれば良いのか?

 単純に、まず自分の得意なところで戦うこと。

 それが出来なければ、多方向から敵と戦うこと。

 それも無理なら、敵の一部に戦力を『集中』して突破する。それから得意なところで戦ったり、多方向から攻撃すること。

 これが第十二条、『『迂回』『包囲』『突破』の順に敵の倒し方を考える』です。

 この時、あくまで『目的の達成が第一』であることを忘れてはなりません。


 最後に、『警戒』に含めても良かったのですが、情報収集というのはとても重要です。情報収集が出来ていない状態など、将棋で自分のコマとその周囲しか見えていない状態に等しいです。

 敵の弱点にしても利点にしても、知れば知るほど敵の行動を予測しやすくなります。


 これが第十三条、『敵の情報収集を怠らない』です。


(ここまで引き継ぎ)


 この原則は今日に至るまで、世界各国の軍隊で教えられている。どのような奇策を打つにしても、まず原則を知らなくては意味がない。敵の手を読む上でも、決して軽視してはいけないのがこの十三条の原則だ。

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