「戦略の定義」

「戦略の定義」

 

——戦略とは何か?——

 

 戦略という言葉の語源は、古代ギリシアで「将軍の術」を意味する言葉に由来する。つまり最初は将軍が兵士をどのように指揮、統率すべきかという意味だった。

 それが現在では「経営戦略」「人生戦略」などといったように多様な使われ方をしている。

 結局のところ、戦略とは何か?

 この問いには現代まで、著名人による数々の答えが出されてきた。ほとんどが基本的には同じような意味ではあるものの、内容の一部において、明確な違いが見られる。

 以下に紹介するものが、代表的な見解だ。

 

「戦略とは戦争目的を達成する手段として戦闘を用いることである」

 ——カール・フォン・クラウゼウィッツ

 (筆者簡素化・戦略とは、戦争によって手に入れたいものを手に入れる為に、戦いを行うことだ)

 

「戦略とは戦争目的のために軍人に委任された諸手段の実質的通用である」

 ——フォン・モルトケ

 (筆者簡素化・戦略とは、戦争で手に入れたいものを手に入れるために、軍人に任され、軍人が行うことのできる色々な行動を効果的に行うことだ)

 

「戦略とは政治目的を達成するために軍事的手段を配分・適用する術(アート)である」

 ——リデルハート

 (筆者簡素化・戦略とは、国の政府がやりたいことを成功させるために、軍隊を使う時の効果的なやり方である)

 

 三人とも戦略家として名の知れた人である。それぞれの見解に見受けられる共通点は『軍事力を戦争の目的に絡ませている』という点だ。これは戦略の狭い定義。先の質問である「戦略とは何か?」に対する最も簡単な回答だ。

 また戦争は政治や外交の延長であるとしている場合が多く、それそのものが単独で存在するわけではないとしている。

 しかし近年、彼らとは別に、戦略の意味をより広く捉えた人が現れ始めた。

 

「戦略とは究極的に、有効にパワーを行使することに関するものである」

 ——グレゴリー・フォスター

 (筆者簡素化・戦略とは結局、効果的に〇〇力を利用することである)

 

「戦略とは今や——パワーの経済的、外交的、そして心理的手段を統合して——明白な、隠された、そして暗黙の方法によって外交政策を最も有効に支援するために、武力による強制のための能力を利用するための全般計画にほかならないと理解されるべきである」

 ——ロバート・オスグッド

 (戦略とは、お金や外国との関係、心理学なども全部合わせて考えるべきことだ。そして正しい方法か、水面下のグレーな方法か、または互いに暗黙のうちに行なっている違法な行動を利用して、それらを国家が外国との関係を持つ上での後ろ盾とし、いざという時は相手国に武力で要求を飲ませる為のあらゆる計画のことである)

 

 この二人をはじめ、近年では戦略の範囲を軍事力に絞ることなく、外交、経済、心理的なものも含めて考えようという考えが広まっている。

 例えば中国の一帯一路戦略だ。

 中国とヨーロッパを繋ぐ諸国に大規模な外交整備とインフラ整備を行うことで、巨大な経済圏を作り上げようとしている。

 これによって中国が中央アジアとの経済的なつながりを強めることは、両者の間で切るのとの難しい関係性が生まれ、軍事的にも協力関係になるだろう。間接的にはウイグル地域の民族問題を抑えやすくなる可能性もある。

 つまり一帯一路は単なる経済戦略ではなく、軍事戦略の一つと捉えることも出来るのだ。

 このようにして自国がより有利になる状況を作り上げること。これもまた「戦略とは何か?」への回答と言えるだろう。

 

 ここの内容が創作に直接役立つことはないかも知れない。しかし狭義、広義に関わらず、『目的の達成』こそが戦略なのだと忘れてはならない。

 

 

——戦略の多様な定義——

 

 

 これまで紹介してきたものの他にも、代表的な定義例を紹介してみよう。


「戦略とは……軍事力の弁証法の術(アート)。より正確には、敵対する二つの意思が紛争を解決するために軍事力を用いた弁証法【不断の相互作用】の術(アート)である」

 ——アンドレ・ポープル

 

 これは先に述べた狭義の戦略の定義と同様に、軍事力を中心とした考え方だ。弁証法という言葉が内容を難しくしているが、つまり軍事力を運用する上で生じてくる矛盾や手違いを、学問、想定内に昇華させる方法こそ戦略なのだと言っている。

 次の二つは広義における戦略だ。

 

「戦略とはある目的——一つの目標とその達成のための手段のシステム——を達成するために考案された行動計画である」

 ——j.C.ワイリー

 

 これはある種の「流れ」に焦点を当てたものだと考えられる。例えば旅行に行く前には、何処へ行くか、どうやって行くかを決めることになるだろう。その際にどうやって決めるのか、という基礎理論が戦略だと言っているのだ。ダーツで決めるのか、多数決で決めるのか、と言ったことだ。

 

「戦略とは偶然性、不確実性、そして曖昧性が支配する世界で、刻々と変化を続ける条件や環境に適応する恒常的なプロセスである」

 ——マーレーとグリムズリー

 

 これも「流れ」に重点を置いたものではないだろうか。しかし先ほどと違うのは、流れそのものを戦略としている点である。

 また旅行の例を使おう。一ヶ月間に渡る長い旅行計画を練ったとして、実際に旅行に行ったら計画通りに過ごすことができるだろうか? 大体は難しいだろう。雨天で観光地を楽しめなかったり、移動時間の計算違いをしたり、身体的疲れ具合の見込違いなどが起こったりする可能性が高い。それに伴い計画は変更されていくだろう。その計画を変える過程のことを戦略と定義したのだ。

 

 以上が主要な戦略の定義である。戦略について学ぶ上で、正直決して知っていなければならない訳ではない。しかし二度目になるが、色々な軍事戦略の目的が『目的の達成』にあることは覚えておいて損はないだろう。

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