脅迫外交戦略


 脅迫とは、他国に対して武力行使を行わずに、自国の意思を強制する外交戦略である。背景には武力が存在する場合が大半であるが、それ「実際に行使せず、平和を保ったままに現状変更を行うことが可能だ。砲艦外交や棍棒外交と言ったものは、どれも脅迫の一種である。

 孫子が上策とする、戦わずして勝つ戦略を行う上でも有用だ。


——脅迫を成功させるための四条件——


脅迫を成功させるためには四つの条件をクリアしなければならない。基本的に強大な国が弱小な国に対して行う戦略ではあるが、条件さえクリアしていれば、弱小国が大国を脅すことも可能である(北朝鮮の事例が最も顕著)。


・第一に、対象国に脅威を与える何らかの行動をとる能力を有すること。

 これは、相手国を上回る戦力を持てという意味ではもちろんない。相手国の弱点に対して、看過できないほどの損害を与える能力があることだ。場合によっては、偽装であっても構わない。


・第二に、対象国がその行動の脅威を信じていること。

 例え相手国の弱点を攻撃する能力を持っていたとしても、それを相手国が信じていなければ脅迫は成功しない。逆にいえば、信じてさえいれば良い。

 だから行動を行うことで捨て身となる場合、脅迫の効果は著しく落ちる。米ソ両国がこれにあたり、事実、互いの脅迫が決定的に相手を譲歩させることは難しかった。


・第三に、脅威は容易に抑止できるものではないこと。

 たとえ弾道ミサイルがあったとしても、相手国が確実に弾道ミサイルを撃ち落とす能力を作り出した場合、脅迫は行えなくなる。他国を頼りにした脅迫も、その他国が寝返ってしまえば終わりだ。


・第四に、要求を受け入れれば自然に脅威が解消すると、相手国が信じていること。

 上の条件を満たしていたとしても、譲歩するより対決した方が良いような要求は出すべきではない。また、譲歩すれば脅威が取り除かれると相手が信じていなくてはならない。オバマ政権時代の北朝鮮などは、アメリカを裏切ってきたために信用がなく、脅迫を行えなくなっていた。


 以上の四条件が、脅迫外交の基本である。


——強制外交戦略——


 脅迫外交とは別に、防勢的な性質を持つ強制外交というものがある。これは、相手国の現状を変更しようとする力に対抗するものだ。キューバ危機における米国の対応や、中国の対台湾政策、海洋進出に対抗する米国の対応がこれにあたる。


 これを行うのに最も適した軍隊は海軍である。陸上戦力は機動性に乏しく(特に撤退が難しい)、航空戦力は同じ場所に展開し続けることができない。対して海軍ならば、どちらもある程度可能であり、柔軟性に富んでいる。

 脅迫外交においても砲艦外交という言葉が生まれるくらいであるから、攻守両面において海上戦力は重要なのだ。


参考文献


Walt, Stephen M. 2005. Taming American Power: The Global Response to U.S. Primacy, New York: W. W. Norton & Company.(邦訳、スティーヴン・ウォルト『米国世界戦略の核心』奥山真司訳、五月書房、2008年)


Booth, Ken. Navies and Foreign Policy, London: Croom Hlem Ltd., 1997.


George, Alenxder. Forceful Persuasion, Washington, D.C.: U.S. Institute of Peace, 1991.

Ross, Robert S. "The 1995-1996 Taiwan Strait Confrontation: Coercion, Credibility, and Use of Force,"International Security, Vol. 25, No. 2, (Fall 2000)

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