第16話
「...」
「...」
ドゥエセタから軍の詳細な現状を聞き終わり、暫く無言の時が続いた。軍は思っていたより無駄がなかった。汚職も無いし、兵器の無駄な購入も無い。そこは流石の王国一の功績者である。隙はない。
もし軍事費を削るとすると、
「第九から第十三師団までを廃止する。」
この一言は、レシツィア王国にとっては重大な決断であった。
この国の軍には第一から第十三師団までが存在する。第一から第八までが今のレシツィア王国内を拠点とし、第九から第十三師団までが、内乱でウォルシャネ公国となった所を元々拠点としていた師団だ。それを廃止する事は、ウォルシャネ公国の領土を諦めた、とも取れるのだ。だから今まで無理をしてまでこの過剰な師団を無理してまで存続させていたのだ。
「ですが、ヴァイネス様、それではウォルシャネ公国領を諦めると言うのですか?」
そう言うドゥエセタの目はまさしく驚きで一杯にまで開かれていた。
「そうとは言っていない。」
「ですが...」
ドゥエセタは難色を示す。
「そんな事に無理な意地を張って国が滅びたらどうする。今のこの国の財政はハッキリ言っていつ滅びてもおかしくない位の酷さだぞ?」
「...」
再びドゥエセタが無言となった。
「退役した軍人の雇用先も決めた。これ以上なんか懸念があるか?」
「いえ、ヴァイネス様、吾輩は今、感動しているのですよ。」
「感動?」
「えぇ、無駄な過信をせず、しっかりと現状を見据え、何をすれば改善するかを考え、時に勇気ある決断をする。それこそ、君主として最も必要な事だと吾輩は思っています。」
そう言うと、ドゥエセタはおもむろに立ち上がった。帰るらしい。
「そうか。」
ヤバい、めっちゃ嬉しい。素直に嬉しい。今まであってきたクソ貴族よりこの人の方が絶対有能でしょ?そんな人に褒められると、素直に嬉しい。
去り際にドゥエセタは立ち止まりこう言った。
「この老耄、最期の役目と思い、何が有ろうとも果たしてみせましょうぞ。」
そんなドゥエセタの言葉通り、三ヶ月後には第九から第十三師団までが廃止された。やはり軍部からは強烈な反発があったらしいが、ドゥエセタの鶴の一声でゴリ押したという。流石は王国一の功績者である。未だ軍人達には非常に尊敬されているらしい。
これに伴う退役者には、色々な役目についてもらった。アイヒシア商会の荷物の運搬の護衛に商人ギルドでも始めた小規模な運搬の運搬や護衛、国としての治安部隊(現代日本の警察の様な物)を各集落ごとに設置するための人員にと、人手不足でやれていなかった事に存分と人員を補充する事が出来た。これで支出も大分楽になる。
残るはより収入を増やす事だろう。
やだなぁ。あのくっそ面倒臭い腹黒貴族共をまた相手にしなきゃなんない。あぁ、マジでやだよ!また四大貴族やらが出しゃばって来るんだろ...
そう呑気な事を考えていると、部屋に伝令兵が飛び込んで来た!
「な、なんだ?一体。そんな急いで。」
肩を切らせている兵に問いかけると、息も切れ切れ兵は口を開いた。
「ベルシツェ王国より使者が参りました。」
前にも言ったがレシツィア王国は友好国が少ない。だから他国から使者が来ることも珍しい。
「分かったが、誰が来たんだ?幾らうちに来る他国の使者が少ないとはいえ、そこまで焦る事はないだろう。」
「それは...」
伝令兵は何故か少し焦っている訳を言う事を躊躇っている。
「早く言え。」
「では...」
少し間を空けて兵士は続ける。
「使者に来たのはベルシツェ王国王太子、ヴァッハリー=タシューベルト様でございます。」
なんてこったい!?
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