第3話

少しの間、瞼が開かないよう抵抗したが、それは全くの無駄だったようで、あっさりと目が覚めてしまった。


目が覚めて真っ先に目に入ったのは豪華絢爛に彩られた天井であった。流石は元大国の居城である。だがその美しい装飾は既に薄汚れ、所々色が剥げている。そこもまた元大国・・だ。


次に辺りを見回そうと体を起こすと脳を刺す痛みに襲われた。


「いったぁぁぁぁぁ」


思わず叫んでしまうと、直ぐに部屋の扉が開かれ人が部屋に飛び込んで来た。


「若様!!起きられましたか!?」


その声は確かに小野倉正志おれ の記憶じゃ初めて聞いた声だったが、王太子おれ にとって最も信頼出来る声であった。扉の方を見ると、欧州系の彫りの深い顔に白い肌、髪に生やした口髭は既に白くなりきっていて、しかしそれに似合わぬくらいにまで真っ直ぐ伸びた背中のお蔭で若く見える老爺が目の前に信じられない奇跡が起こった顔をして立っていた。老爺はヴァイネスの育て役である前レシツィア王国宰相のオットー=アーヌス=ルイシフォンだ。つまり実母実父よりも長く時を過ごした絶対に信頼出来る「大人」である人だ。そしてまるで奇跡が起こったような顔をしているも分かる。何者かに刺され死んだはずの王太子が生き返ったからだ。


「爺、そこまで驚く事でもなかろう。」


自然に口が動いた。そういうと爺ことルイシフォンはハッとして固まってた体を俺に近付けながら言った。


「若様、安静になさってください。大分深くまで刃物は刺さっていました。暫くの間療養を取ります故。」


「ふぅ、安心したぞ。漸く爺がいつものように戻ったからな。」


そう、何があっても動じないで冷静に、淡々とされど細かく気の使える。それが王太子おれ が憧れて止まなかったルイシフォンの姿であるのだから。


「すいません若様、まさか生きておられるとは思っておらず、不肖驚きまして。」


「いやいや、謝ることないよ爺、僕だって驚くさ。死んだと思った人が生きているなんて知ったら。」


「ですが...」


そう何か言おうとした爺を遮って爺に聞いた。


「それより他の動きはどうなっている?」


「やはりイルザール派の貴族が騒いでおります。」


「刺された理由はやはり王位か?」


「そうでしょう。特に東部のアルスラール家や南部のクラーシャル家が兵を集め初めております。」


「反乱か?」


「そのようですね。このままだと間違えなく起こります。」


「対処は?」


「私の息子や友に兵を控えさせるよう常日頃より言ってますから暫くは大丈夫でしょう。ですが、本格的になると...」


「その前にどうにかしないと本当に国が滅びるか」


「その通りです。流石若様」


「分かった。取り敢えずイルザール派の動向を引き続き探れ」


「はっ!」


そう言うとルイシフォンは下がっていった。



「...」


「初手から反乱とか...」


「もうやだ!!今すぐ帰りてぇ。あのくそロリめ!!とっちめてやるからな!!」


虚しい叫びが部屋に響いた。





水晶は世界を写し出した。


「ねぇ、なんであいつまで私をくそロリとか言ってんの?私天界第二位のえっらい神様でしょ?」


「仕方ないだろう、お前には威厳がない」


そこから世界を覗くは創世神ウェルスと生きる物を統べる神ルートゥヴェル。


「威厳が...ない?この私が?この私が威厳がないっていうの!?わざわざ威厳マシマシの口調まで使って!あの子を導いてあげたのよ!?」


「あの口調が威厳ある口調だと思ってたのか!?」


「ええ、そうよ?」


「筋金入りのバカだな。あの口調で増してたのは威厳じゃなくて滑稽さだけだぞ?」


「あぁ、ウェルスまた私をバカって言った!酷い!?」


「はぁ、これが天界第二位だからな、転生の威厳も地に落ちたよ」


「酷いじゃない」

涙目になりながらルートゥヴェルはウェルスの巨大な背をタコ殴りしていた

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