弱小国の王太子に転生したから死ぬ気で国を生き残させる

糸井嵜諸常

第1話

目が覚めると謎の空間に居た。

いや、まず目が覚める事が謎だ



俺、小野倉正志は何の変哲もない普通の高校生だった。県でまぁまぁの高校に進み、まぁまぁの成績で、そしてまぁまぁ運動が出来た。少し歴史が得意で数学が苦手だ、くらいの個性しか持ち合わせてなかった。


だが、最期に一つだけ誇れる事をした。いつものように塾から帰る途中に、横断歩道にいた女の子が信号無視をしたトラックに轢かれそうになった。咄嗟に身体が動いた。多分脳より先に動いた。何とか女の子を突き飛ばした感覚が一瞬した。だがそれを消すように暴力的に圧倒的な衝撃が全身を走った。こりゃダメだ。死んだ。これが最初の感想だった。


だから目が覚める事がおかしいのだ。 死んだんだから。

ついでに目の前には俺が助けたはずの女の子ガキ が居た。


「おぉ、漸く起きたのか。いやぁ、焦ったぞ。全く起きないから魂すら死んだのかと思ったぞ。」


更に口調すらおかしいと来た。なんて人生だ。


「それにしても焦ったぞ。まさかわれ 」が見えるとは。今の時代に神なんて見える人間なんか居ないと思って油断しすぎたようじゃの。」


「えっ、神?」


「そうじゃぞ。我は神じゃ。そうそうの人には見えん。」


信じられないが今のこの異常性イレギュラー を考えると信じるしかない。


「じゃあ、俺は女の子を助けた訳じゃなく...?」


「そうじゃ、他人から見ると信号無視したトラックに勝手に突っ込んだヤバい奴、になるな、お主。」


「嘘ダローーーー!!」


思わず叫んでしまった。最悪の最悪だ。今頃地球あっち じゃ笑い話になってるだろ!

あぁ最悪だ。人生最悪の汚点だ。


「じゃがのぉ、流石に我を助けようとして死んだじゃろう?ちと可哀想な気がしてのぉ。」


生き返してくれるのか?いや、今更生き返っても世間体は死んでいる。


「でもなぁ、流石の我も時間を巻き戻すことは出来んのじゃ。だからの、お主の生きておったのと別の世界、所謂異世界に飛んでもらう。」


「はぁ...」


マジであったんだな、異世界転生。どうせならな○うみたいにチートマシマシイケメン主人公にでもなりてぇな。


「ちなみに転生先は王国の王太子じゃぞ。なんか知らんが丁度波長が合ってしんでたからの。」


王太子かぁ。毎日豪遊出来そうだなぁ。


「気に入ったか?」


「いや、まぁね。」


「そうか!それは良かったぞ。気に入らなかったらどうしようかヒヤヒヤしてたからの。」


「ではいくぞ!目を瞑っておれ。」


言われた通り目を瞑って暫く、意識が遠のいていった。

にしてもなんでロリのくせに口調がジジイなんだ?

後名前はなんなんだろうな。






「ふぅ、危なかった。本当に危なかったのぅ。なんとか誤魔化せたわい。」


見た目の幼さと麗しさからかけ離れた口調のまま、ロリ神こと天界位第二位、 全ての生物を統べる神ルートゥヴェルは溜息をついた。


「普通下位の神が見えるならまだしも、この我が見えるとはのぅ、人間を舐めておったは。」


「それにしても、彼奴の転生先、よく見ると凄いのぉ。あんなオワコンなかなか見ないぞwww」


「おい、お前口を慎め。一応神がオワコンやらwwwを使っているなんて知ったら信仰深き信者達が発狂するぞ?」


ロリ神ルートゥヴェル が振り返るとそこには、不機嫌そうな顔をした巨漢、天界位第一位、創世神ウェルスが居た。


「なんじゃ、お主か。ウェルス。まぁ、良いではないか!そこまでを敬愛してこそ真の信者じゃぞ?」


「はぁ...まぁ良い、本題はそこではない。」


「?」


「お前は俺に謝る事があるだろう?」


「な...なんじゃ?お主の大好きなプリンを食ったことか?お主の妻にあることない事吹き込んだことか?それとも...」


「もういい、それは後で追及する。」


「じゃあ一体なんじゃ?」


「お前、転生させただろう?」


そうウェルスに言われるとルートゥヴェルは見るからに焦った。


「えっ、いや、なんでそれをお主が...」


「はぁ、さっきお主の口で白状してただろう?」


「...」


「しまったー!!??」


神とは思えぬ声を発しながらルートゥヴェルは逃げの構えを見せた。


「逃がさぬぞ?」


いつの間にか部屋の出口はウェルスが塞いでいる。ルートゥヴェルが逃げるのを諦めたのをみてからウェルスは凄みながら言った。


「転生の手引きはつい千年前に禁止したばかりだろう?」


「いや、なんというか、その...」


「たっぷりお仕置きが必要だな?」


そう言うとウェルスは、背中からたある物を取り出した。

瞬間、ルートゥヴェルは固まった。


「そ、それは」


「あぁ、お前が大切に取っていた一日十個限定の天界シュークリームだ。」


「やめでぇ、それだげはぁ、やめでぇ、死んじゃうがらぁ」


カエルを潰したような声を発しながらルートゥヴェルは言った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る