第20話

 ルーグスとの寝顔事件から3時間位が経過し、俺は無言のまま廊下を歩いていた。四大貴族との会談のために、応接室に向かっているのだ。


 四大貴族とは、レシツィア国内でも有数の名家や実力のある四つの貴族、アーマヌス公爵家、バーレン伯爵家、ウィストー伯爵家、マハトフ伯爵家の四家を指す言葉だ。

 この四家が力を合わせれば、王家すら敵わないと言われている。大体一つ一つがルーグスの所、ツヴァイシア家より少し小さい程度の権力を誇る貴族だ。ましてや四つもあれば当然国なんかひっくり返るのだ。マジで王家はなんでここの王をやってるんだよ? 理解出来んは。


「おぉ、待っておりましたぞ、王太子様」


 応接室につくや否や手を握りそう媚びてきたのは、ビール腹に豚のような顔、あぶらぎった皮膚は如何にもゲス貴族の代表格のような男、ドゥエネスコ=ウィスト―だった。レシツィア北西に広大な領地を持つ大貴族で、ウィスト―自身も外務大臣とレシツィア王国最高裁判所の裁判長を兼任している人物だ。その見た目から50代と見紛うが、実はまだ28だということが衝撃で、初めて会ったときは衝撃で他の情報が一切入って来なっかた。

 いったいどんな生活をすればこんな体型と容姿になれるのかがめちゃくちゃ気になるぞ。ある意味人類の奇跡だろ。


 神は残酷だ。


 そんなウィスト―に続き俺に挨拶してきたのは白髪の老人、メルティナ=アーマヌス、その隣にいる四十くらいのおっさんがウォールズ=バーレンだ。


 そして最後に会釈した、若く浅黒い異国人風のイケメン、社交界で貴婦人の憧憬のまなざしを一手に受ける大貴族、イズイール=マハトフである。まだ25歳と四大貴族最年少ながら、領地経営の腕前は相当らしく、実際ここ数年でマハトフ伯爵家の領地の生産力は急激に上昇しているらしい。

 うらやましい限りである。やはりマジで俺じゃなくてとこのイケメンが王大子をやってほしいよ。異世界まで来てなんで俺はこんな苦しい思いをしながら王国の王太子なんかやんなきゃならないんだ。チートぐらいさせてくれよ!






 簡単な挨拶が終わると、階段干支本格的に話題が移っていった。まず俺が、前回拒否られた租税回収者の貴族からの転換と、人頭税の廃止、代わりに地租の導入について説明していく。人頭税の廃止は彼らにとって意外なことだったのか、特に強い反対もなく進み、一度各貴族たちが持ち帰って再検討することで、案外早く決まった。

 しかし、やはり租税回収者の変更はみな難色を示した。特にウィスト―の反応なんかひどくて、「我々貴族たちを信用していないのですか!」なんて大声で言われた。

 信用できるわけねーだろ! 実際汚職してんだから!という心の声を何とか封じ込め、

「いや、そういうわけでないのだが、実際汚職が行われていることも確かだろう」

 そう言ってもとから用意していた紙束を貴族どもに突きつける。

 そうすると、顔の変化が比較的わかりやすいウィスト―の顔は真っ蒼になった。

 ほかの貴族たちは流石に貴族の世界を生き抜いてきただけあるのか、顔の変化などは分からなかったが、明らかに動揺していることはわかる。

 俺が突き付けた紙束は、辞意たちに調べさせた、貴族たちの汚職一覧である。中には四大貴族の親族や取り巻き、四大貴族には及ばないものの、大貴族と呼ばれる貴族たちのも含まれている。



 しばらくの沈黙の後、口を開いたのは、マハトフであった。


「はぁ、仕方ありませんね。」


 マハトフがそういうと、他の貴族達、特にウィスト―は焦った顔をしたが、気にせずにマハトフは続けた。


「こうなればこちらが折れるしかありません。こんな大量の不正が見つかってしまったのですから、これを見逃してくれることこそこちらが感謝するくらいの代償です。」



 そうマハトフが言うと四大貴族も納得したのか、(最もそれでもウィスト―は不満げな様子を隠そうともしなかったが)皆、渋々ながら回収者の変更を認めた。




 うしゃぁぁぁ!思わずガッツポーズをしそうになってしまった。

 何といっても糞貴族どもに勝ったのだ。うれしくてうれしくて仕方がなくなってしまう。


 あとマハトフには、何か重職に当たらせてもいいように思った。今回、いち早く賛成してくれたし、何よりもキレ者だと国内でも有名であるからだ。後で個人的に話してみたいな。


 そう思いながら、四大貴族との会談を終えたたのだった。

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