9、予感
『来ねぇなぁ』
あれから、10日。あいつと出会って、一ヵ月。
約束通りに吸精は続けられ、あたしの力はついにあいつを上回った。
『来ねぇなぁ』
いや、それどころか、ほとんどあいつの精気を吸いきってしまった。恐らく、全盛期の一割程度の力しか、今のあいつには残されていない。
『来ねぇ』
「うっさいわね! 言われなくても分かってるから黙ってなさいよ!」
リズを尻尾で叩き飛ばし、あたしは叫ぶ。反響した怒声が地下水道の中を這いまわり、小型の魔物が逃げていくのが感じられた。
『なんだよ御主人。カリカリしてるなぁ』
とぼけた顔で戻ってきたリズが笑う。あぁくそ、ムカつく。
時刻は夜。いつもならとっくに吸精を終え、おにぎりを食べている時間。
あいつは、まだ来ない。
『まぁ、あれ以上吸ったらあいつが死にかねないしな。本格的にヤバいと思ったんじゃねぇの?』
「…………ん」
確かにそれはあるかも。あいつの目的が何であれ、死ぬ事までは望まないはずだ。もしも死ぬつもりで吸精を頼んでいたのなら、他に死に方なんて幾らでもあるだろう。
けれど、あの生真面目バカが何も言わずにいきなり約束を反故にするだろうか? いいや、あり得ない。それは断言する。
あいつは、来る。絶対に。
『御主人~~』
と、ロアがふよふよとこちらに近づいて来る。
あいつを見つけたら連れて来るようにと、地下水道の入り口辺りで待機させていたのだ。けれどロアの他には誰もいない。
「……何よ」
『あのね、お外が賑やかなの~』
ふわふわとした口調で言う。あたしは顔をしかめた。
「……わけ分かんない」
『なんかね~、人間達が追いかけっこしてたの~。魔法もたくさんで~、すっごいピカピカしてた~』
「魔法を使って、人間を追う……?」
しかも、この近くで? こんな時間に地下水道に近づくヤツなんて……、……!
「リズ、ロア、行くわよ!」
『は? なんだよ御主人、いきなり』
リズに声を返してあげられるほど、あたしに余裕はない。
いてもたってもいられず、私は翼を駆って飛び立った。
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