3、勇者候補
上背のある細見の体に、端正な顔立ち。鮮やかな銀髪が膨大な魔力のせいか更に煌びやかに輝いて見える。この地下水道には絶望的に似合わない風貌だ。
人間と魔物の大きな違いは、身体的な特徴、例えば翼だとか角だとかが主であって、顔立ちなどが大きく異なっているわけじゃない。もちろん、異形にしか見えないような種族もいるにはいるけど。
こんな形でなければ、少しどきっとしていたかもしれない。けど、今のあたしは恐怖で顔を引きつらせる事しか出来なかった。
「お前、魔物だな?」
「み、見れば、分かるでしょ……?」
震える声で返すあたしに、男は淡々と言葉を連ねる。
「少し前、淫魔が街に現れて逃げられた、という話を聞いた。まさか、こんな場所にずっと隠れ住んでいたとはな」
「……淫魔じゃ、ないし。夢魔、だし」
あぁ、こういうのってアレかな。開き直ってるのかな、あたし。
逃げなければ、って感情がどっかに行っちゃった。だって、考えるだけ無駄だし。
それなら、最後ぐらいは、自分らしく死にたい。あたしは全力で虚勢を張りながら男を睨み据えた。
「……夢魔? 嘘をつけ。その格好は確実に淫魔だろう」
そう言って私の体を見やる男。
魔物は人間よりも長命で、種族によるけど成長も遅い。あたしは人間換算で15歳前後ぐらいだけど、同じ年頃のヤツよりも童顔で、けれど胸が大きく、よくエロい体だとからかわれていた。淫魔みたいって。それがすごいイヤだった。
それに、街を飛び出す時には綺麗だったドレスも、地下水道暮らしですっかりすり減り、破れ、見る影もない。私の肌をあちこち露出させているこのボロキレは、淫魔が纏う扇情的な衣装に確かに似ているかもしれない。
なので、男があたしを淫魔と間違えるのは無理もない……が、
「違うわよ。淫魔はエロい事をして精気を吸って力を得る、あたしは夢から精気を吸って力を得る。似てるけど、全然違う。見た目だけで判断するなバカ」
殺される前提なら、臆さない。淫魔認定されたまま死んでたまるか……!
「ふむ、なるほど。どちらにせよ、人間の精気を吸う事に違いは無いのだな」
「そうよ! ほら、さっさと殺せば? あたしはとっくに」
ぐぎゅるるぎゅるぎゅるるるるる!! 特大の腹の虫が、あたしの啖呵を遮った。
くぅぅ、死ぬ覚悟はあるのに、なんかめっちゃ恥ずい……! 死ぬ前くらい黙っててよ!
「……お前、腹が減っているのか?」
と、男が驚いたような、呆れたような表情で言う。
「……そうよ。悪い?」
「悪くは無い。が、それでは困る」
男は辺りを見回しながら言葉を継ぐ。
「ふむ、さすがにここは良くないな……場所を移す。行くぞ」
「は? いや、あんた何言って、って痛たたたたた!」
翼を引きながら歩き出す。抵抗しようとするも、力の出ないあたしじゃ……いや、多分万全のあたしでも無理だ。力が強すぎる。
魔力は、全ての強さに通じる。男は今、その馬鹿げた魔力で腕力を強化しているのだろう。為す術なく、あたしの体は地下水道を引きずられていく。
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