底辺夢魔は今日も勇者候補と飯を食う

虹音 ゆいが

1、夢魔

『さぁさぁ、良い子のみんな~。お話をはっじめるよ~』


『わ~い!』


『昔々ある所に、人間が住んでいました。

 またある所に、魔物が住んでいました。

 人間と魔物は仲が悪いです。めっちゃ悪いです。

 人間は魔物の姿が自分達と違ってキモいだ何だと言って、見つけた傍からぶっ殺すし。

 魔物は魔物で人間は下等な生き物だと見下しまくってて、出会った傍からぶっ殺すし。

 んで、気が付いたら人間と魔物は戦争を始めてました。百年? 二百年? 千年? とにかく、すんごい昔から戦乱の世は続いてます。ウザいですね~』


『ウザ~い!』


『魔物はキモいだけじゃなくて火を吐いたり変身したり、挙句には魔力を使って隕石を落としちゃうような化け物もいたりします。そんな強い魔物は魔王って呼ばれてます。魔王様ばんざ~い』


『ばんざ~い!』


『人間は全体的に弱っちいけど、いつの間にかすんごく強い魔力を持った奴が湧いて出てきたりします。勇者、な~んて生意気な名前をしてるみたいです。キモ~い』


『キモ~い!』


『魔王様と勇者は、何度も何度も闘ってきました。時には魔王様が勝ち、時には勇者がまぐれで勝ち、でもすぐに次の魔王様や勇者が出て来るので、いつまで経っても闘いは終わりません。どっちもだんだん闘う事に飽きてきました。だる~い』


『だる~い!』


『でも、飽きて来たからってお互いが邪魔な事は変わらないので、今は何とな~く闘いながらお互いの出方を見てる感じなわけですね~……はい! これでお話はしゅ~りょ~』


『え~~~!』


『だいじょ~ぶ。終わったのは第一部。次は第二部を』


「やらんでえ~わぁぁぁぁぁぁ!!」


 ばこぉん! あたしは寝転がったまま尻尾を思いっきり振り回して、バカみたい事をしてるバカ共を力いっぱいに吹っ飛ばした。


「むぎゅ!」「ぶほっ!」


 一直線に吹っ飛んだバカ共は、カビ臭くて小汚い壁に激突した。ぽてん、と地面に落ちたバカ共がのそのそと体を起こす。


『痛てて……おい、なんだよ御主人。これは虐待だぞ。訴えるぞ』

『そ~だそ~だ!』


「うるっさいわぁ! 人が空腹を紛らわせようと必死に寝ようとしてるってのに、デカい声でぎゃーぎゃーと」


 ぐ~~~~! 盛大且つ情けなさ極まる音があたしの腹の辺りから響く。うぅ、大声出し過ぎた……。


『ひゃははっ! すんげぇ音。御主人も一応女なんだから、その辺りはもう少し慎み持った方が良いんじゃねぇの?』

『慎め慎め~』


「そのあたしの使い魔があんた達でしょ~が! 言動を慎まなきゃなんないのはどっちよ」


 びしぃ! と指を指して抗議。けど、あたしのバカ使い魔達……リズとロアはけたけたと笑うばかりで、何一つ反省しちゃいない。


 ここは王都。人間の住む国で最大の大きさを誇り、魔物の脅威に怯え、抵抗しながらも繁栄を謳歌している大都市…………の地下水道だ。


 人がたくさん住んでいて活気があるとはいえ、ここみたいなあまり一目に触れない場所の手入れはひどいモノ。匂いもひどく、弱い魔物なんかも住んでいるような有様。到底まともな環境とは言えない。


『ひゃはっ、弱い魔物ってつまり御主人の事だろ~?』

「べ、別に弱くないし! ……下の上くらいは強いし!」


 反射的に飛び起きて、何となく腕を組んだ。


 そう。あたしは人間じゃない。


 魔物。その中でも、夢魔、という種族で、人間の力を吸う事で強くなる種族だ。人間の方では淫魔と同じに扱われる事もあるみたいだけど、冗談じゃない。あんなエロいだけの奴らと一緒にされてたまるかっての。


 ぐぎゅるる! とまたも派手に音が響き渡り、立ち眩みで体から力が抜けた。近くの壁に手をついて倒れないように堪える。湿った壁の感触は、もう慣れているとはいえやっぱり気持ち悪かった。


「……てゆーか、さっきの何よ。わざとらしい語り口でさ」


 問うと、二匹は小さな翼を羽ばたかせつつあたしの周りをくるくる飛ぶ。


『ちょっと前、王都地上に遊びに行った時に見たのさ。人間どもは〝紙芝居〟とか言ってたぜ?』

「あっそ……使い魔が主人放っといて単独行動してんじゃないわよ」


 叱るべきなのだろうけど、お腹が空き過ぎてもうそんな気も起きない。


 使い魔の肉体は、主の魔力を粘土のようにこねくり回して創り出す。どうせなら可愛いのが良い、とあたしは犬と猫に羽を生やしたような姿でリズとロアを創ったけど、そのせいかあたしの言う事を全く聞かない奔放な性格になってしまった。


『けどさぁ、実際どうする気なのさ? アリーシャ』


 甲高い声を気持ち程度低く抑え、リズが珍しく真剣に言う。


「どうするって?」

『決まってんじゃん。いつまでこんな汚いとこで暮らし続けるのか、って事』


「あたしだって好きで暮らしてんじゃないわよ。けど……無理でしょ。勇者を倒して来い、だなんてさ」


 金色の癖毛をかきむしり、あたしは空を見上げる。けど、陰気な地下水道の天井しか見えず、ますます気が滅入った。

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