13、狩り

 闇夜の中を大きく飛び上がり、眼下を見下ろして目を凝らす。


 王都ともなると、夜が深まっても灯っている明かりは多い。中でも、人間の王が住む城や、有力な大貴族が住む屋敷などは、その存在感を見せつけるかのように煌々と明かりが灯っている。


「さ~ってと」


 目を凝らす。光が強く主張している場所を一つ一つ、ゆっくりと。


 あたしが探しているのは、魔力。夢魔は獲物を効率よく、且つ気付かれないように発見する為、魔力の探知能力に秀でているからだ。


 翼を駆り、ゆっくりと旋回する。と、リズとロアが追い付いてきた。


『お、おい御主人! さっきから飛ばし過ぎだぜ、置いてくなよな』

『なよな~』

「ごめんごめん。ま、ちゃんと御褒美はあげるからさ」

『ご、御褒美? おい御主人……拾い食いは良くないぜ?』

「どういう意味よ……あ」


 ついさっき夢の中で記憶した魔力が、あたしの頭の中のアンテナが捉えた。


「……あたしに捕まってて。また、飛ばすわよ」


 2匹の返答を待たず、こみ上がりそうになる笑みをどうにかこらえながらあたしは翼を大きく翻す。そして、


「見~つっけたぁ!」


 全速突進。目指す先は、王城から目と鼻の先にある1つの大きな屋敷。


 その庭に激突するかのように降り立つ。そこには、庭の真ん中で目を丸くしている1人の女がいた。


「ひっ、ま、魔物……! どうしてこんなとこにいるんですの!?」

「やっほ~、会いたかったよ? ミリアーネちゃん」


 ヒステリックな金切声をあげる赤髪の女、ミリアーネ。あたしに名前を呼ばれ、びくっと肩を震わせた。


「ど、どうして……」

「あれ? ちょっとイメージ違うなぁ。そこは腕を組んで不遜に『魔物風情が、このわたくしが誰か分かってますの?』ぐらい言って欲しかったんだけど」


 ああ、おかしい。あのバカは、こんなつまらない女に良いように扱われて続け、挙句に命までも搾り取られそうになったのか。


 おかし過ぎて、殺したくなる。


「ま、いいや。別に雑談する気は全然なかったし?」


 爪に魔力を纏わせ、口元を歪める。


「っ……誰か! 誰でもいいです、わたくしの下に!」


 声を張り上げるミリアーネ。と、10秒もかからずに屈強な男達が庭に雪崩れ込んできた。その数、30人くらいか。


 この屋敷で雇っている人間だろう。あいつを追い回していたヤツと違って魔力を扱えないようだが、腕っぷしに自信を持っている事がその顔つきから分かる。


「ミリアーネお嬢様、どうかなさいましたか? フリードレッグを追っている者達はまだ帰ってきて……ま、魔物だと!?」

「こいつ、淫魔ってヤツか! 男を誑かすっていう……」


 違います。あたしは夢魔です。……もう訂正するのもめんどい。


 まぁ、訂正する意味も無い。あたしは服にへばりついているリズとロアを引っぺがし、空中に放り投げた。


「さ、約束の御褒美よ」


 2匹に魔力を注ぎ込む。と、犬と猫の体をベースにしている2匹の体に変化が起きる。


 使い魔は、主の魔力の強さによって姿を変える。あいつに半分力を返したとはいえ、今のあたしなら、もっと使い魔らしい姿にしてやれる。


 みるみるうちに巨大化し、それだけだとなんか情けないので強そうな姿に。翼持つ猛獣へと変貌した2匹に、あたしは笑いかけた。


「それじゃ、憂さ晴らしに思う存分暴れていいわよ? あんた達はあたしが生きてる限り、死ねないんだから。死ぬ気で楽しんできなさい」

『おいおい、御主人。それは御褒美じゃなくて、罰ゲームって言うんだぜ!』

『だぜ~!』


 2匹は左右に分かれ、あたしを取り囲む男達に見境なく襲い掛かった。


「ぎゃあああっ!」

「ば、バケモノ……!」


 魔力が扱えない時点で、筋肉だけ立派なでくの坊でしかない。今のリズとロアの敵じゃない。よし、こっちは任せよう。

 

 蹂躙劇を一瞥し、あたしはミリアーネに視線を戻した。 


「さて、それじゃあ本題に戻るわね」

「ひっ……あ、あなた、どうしてわたくしを……」

「ムカつくから」


 ひた、ひた、と。


 裸足で庭を覆う下草を踏みつけ、あたしは笑顔でミリアーネににじり寄る。こいつは勇者候補だけあって魔力を扱えるようだが、全盛期の半分になったあたしよりも更に格下の魔力。抵抗されても全く問題ない。


「そりゃさ、魔物の中にもアレな女はいるよ? あたしだって人の事は言えない。けど、あんたはあいつを食い物にした挙句、使い捨てようとした。ムカつくよね」

「あ、あいつ……?」

「そう、あいつ」


 ……ふふっ、さっきからあたし、あいつの事しか考えてないや。ホント、いつからあたし、こうなっちゃったんだろ。


 まだ出会って一ヵ月ぐらいしか経ってないのに。そもそもあいつは人間で、あたしは魔物なのに。バッカみたい。


 でも、いい。あたしはこのムカムカをどうにかしないと気が済まないだけ。その為には、このクソ女をぶちのめすのが一番手っ取り早い。


 ミリアーネは抵抗するのではなく、どうにかしてここから逃げようとしているようだった。往生際の悪い。あたしは自分の魔力を解放して力の差を見せつける。


「う、ぅぅ……!」


 逃げる事は出来ない、とようやく理解したか、ミリアーネは涙を流してへたり込んだ。


「へぇ、婚約者を殺そうとしたくせに、自分はこの程度で泣いたりするんだ。さぞ育ちの良いお嬢様なんだろうね」

「こん、やく……あ、あなたどうして、フリードの事を……!?」

「さぁ? 自分で考えて」


 震える声を淡々と切り捨て、あたしは爪に魔力を込め、


「それじゃ、バイバイ」


 振り下ろす。ミリアーネの心臓を抉り出さんと空気を貫き、


「っ……!?」


 がきぃ! と耳に響く硬質な音に、爪を弾かれる。あたしは一つ舌打ち。


「……何してんの? あんた」


 あいつが、剣を手にミリアーネの前に立っていた。

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