第18話覇業は止まず


 軍勢を率いて慌ててケルビム城に戻る。ケルビム城では寡兵ながら外に出て魔王軍の軍勢を迎撃しているようであった。ラーバルオの判断だろう。



 下手に城に籠もるよりは獅子族が得意とする野戦に持ち込み、敵軍を撃退するのが吉、と判断したようだ。



 そして、それは間違ってはいないと思う。ケルビム城に残してきた兵は寡兵も寡兵だが、一騎当千の戦いぶりを見せて魔王軍の部隊を蹴散らしているようだった。



 そこに俺率いる部隊が増援に駆け付ける。当然、ケルビム城の守兵たちの士気は上がった。


「女王様が来てくれたぞ!」

「皆の者、ここが踏ん張りどころだ!」

「女王様の前で恥ずかしい戦を見せるんじゃないぞ!」


 兵たちは活気づき、それまで以上の戦いぶりを見せて、魔王軍を撃退していく。

 俺も前線で豪腕と爪を振るい、魔王軍の亜人部隊を蹴散らしていく。



 俺が率いていた部隊も守兵たちと合流し、魔王軍の部隊と戦う。こうなってしまえば、もう戦いは獅子の軍勢のものだった。



 魔王軍の兵力は多いが一騎当千の猛者揃いの獅子の軍勢の相手をするにはまだまだ足りない。



 獅子の軍勢、その中でも特に精鋭中の精鋭の黄金獅子王族は魔王軍の魔物たちを容易く蹴散らし、魔王軍の士気を下げ、獅子の軍勢の士気を上げる。乱戦の最中、俺はラーバルオと合流した。


「ラーバルオ!」

「これは女王様」

「うむ。よく防衛の指揮を執ってくれた。感謝している」


 俺がラーバルオに笑みを浮かべ、褒め称えるとラーバルオは少し謙遜した笑みを返した。


「いえ、私の成した事など大した事ではありません。全ては勇猛果敢な獅子の軍勢の力。私の力などその中にあっては大したものではありませぬ」

「何を言うか。お主が指揮を執ってくれたから獅子の軍勢は戦えたのだ。俺がいない間、ケルビム城を守ってくれて、感謝している」

「ありがたきお言葉です」


 俺の称賛にラーバルオはやはり謙遜をしていたが、彼の指揮のおかげでケルビム城が守られたと言っても過言ではなかった。留守役として残して来たのは正解だったな、と思う。


「女王様! 敵の増援です!」


 そんな中、同じく前線で戦っていたライファスが俺に声を掛ける。敵の増援!? 少し驚くが、まぁ、それくらいはあるか、と思ったので驚愕を飲み込み「なんだと!?」と声を返す。


「前線に出ている黄金獅子王だけで支えられそうか!?」

「それは大丈夫です、女王様! 我々だけで持ちこたえられます……いえ、敵軍を粉砕出来ます!」

「ならば良い! 全軍、敵軍を迎撃せよ!」


 ライファスにそう返し、俺は全軍に号令を掛ける。士気旺盛になった獅子の軍勢は敵、魔王軍の増援にもめげず、戦い、敵部隊を粉砕していく。



 獅子の軍勢が多少の増援があったぐらいで敗れるはずはないのだ。そうして、戦いの末に魔王軍を撃退し、俺はケルビム城に入る。



 魔王軍の襲来を撃退した自軍の士気は高かった。俺はそんな獅子たちに言葉を掛ける。


「全軍! よく戦ってくれた! 俺の覇道を支えてくれるのは、皆々の力だ!」


 俺の声に獅子たちは歓声を返す。士気旺盛。その言葉が胸をよぎる。この分なら問題ない。獅子の軍勢は魔王軍を粉砕し、天下に覇を唱える事が出来るであろう。そう思い、俺は声を続ける。


「これより先の予定を話しておく。次なる侵攻の目的はエルゼン城だ! この地の攻略は人間の軍と協力して行う!」


 獅子たちは俺の言葉に動揺をあらわにする。人間と共同作戦。驚くのも困惑するのも無理はなかった。だが、それらの動揺を押しつぶすように俺は声を重ねる。


「人間との共同戦線など俺も本意ではないが、多くの城を保持するには獅子だけでは数が足りぬ! 皆、不満は分かるが、ここはこらえてくれ!」


 相変わらず動揺している様子の獅子たちであったが、少しはそれも収まり出して来た。とはいえ、やはり、人間などと一緒に戦うのか、という思いは充満している。



 だが、納得してもらうしかない。俺は玉座の間に戻るとラーバルトとライナに声を掛ける。


「人間と共に戦う。やはり配下の獅子たちは良い顔をしないようだな」


 俺の言葉にラーバルオは頷く。


「それも無理はありません。大多数の獅子たちは人間を下等種族と見下しておりますから」

「その人間と一緒に戦うんだからね。同盟を組むだけなら我慢出来ても、一緒に戦うとなると我慢出来ない獅子が出てもおかしくないわ」


 ラーバルオとライナの言葉ももっともだ。

 だが、これ以上、戦線を拡大するに当たって、人間の協力は必要不可欠だ。



 そう思っていると人間に、コルニグス王国に共闘の使者として出した黄金獅子王・アーバムが帰ってきた。俺はどうだった? と訊ねる。


「はい、女王様! 人間たちは我々との共同作戦を受け入れてくれました! 共にエルゼン城を攻め落とそうという話です!」

「そうか。よくやってくれたアーバム」

「いえいえ、自分など大した事はしておりませぬ」


 人間も、コルニグス王国もこの申し出を飲んだか。ならば後はエルゼン城を攻略するのみ。俺たちは速攻を心掛け、軍備を整える。



 そうして、やって来た人間の軍と合流し、エルゼン城を攻める。獅子の軍勢にも、人間の軍にも相手の事を完全に信用していない雰囲気が漂っていたが、幸いにして同士討ちを引き起こすような事はなく、エルゼン城の防衛をする魔王軍を打ち破り、エルゼン城を落城させる。



 エルゼン城の統治権は約束通り、人間に譲った。これに獅子たちは大いに不満を示したが、これ以上の城は獅子だけでは管理しきれないという俺の言葉になんとか鉾を収めてくれ、ケルビム城に戻る。


「ラーバルオ、魔王軍を撃滅して行っている。この勢いで俺の覇道を成し遂げたい所だな」


 俺の言葉にラーバルオは頷く。


「はっ! 女王様の天下のため、このラーバルオ、粉骨砕身して仕える次第であります!」


 一騎当千の黄金獅子王軍が俺には付いている。この軍勢を使えば天下に覇を唱える事など難しい事ではない。俺はそれを再確認し、頷く。


「天下は、この黄金獅子王の女王・ライオが制するのだ!」


 その決意を、胸に秘める。俺の覇道はまだまだ始まったばかりだ。全て征服して平らげて見せよう。そう強く決心する。それが実行に移されるまでそう遠い時間が必要だとは思わなかった。


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