第8話魔王軍襲来、再び


 コルニグス王国との同盟も成立し、コーラシュマー城を占拠した獅子族の間にはしばしの平穏の時が訪れていた。



 コルニグス王国と同盟が結べたのだから、すぐに城を出て魔王軍の領地に攻め入るべき、との意見も配下の間では出たし、俺もいずれはそうするつもりではあるのだが、今はまだ時期尚早という思いの方が強かった。



 理由は何より背後のコルニグス王国だ。



 確かに同盟は結べている。

 だが、まだ結ばれたばかりでこれから先の動向は読み辛い。



 軍師であるラーバルオも今は同盟の安定に務めるべき、との見解を示す。



 勿論、コルニグス王国としても最上位の魔物で脅威と成り得る黄金獅子王族の俺たちをむやみに敵に回す事はしないだろうと思われるが、そこはやはり人間と魔物。どのような行き違いが起こるか、分かったものではない。



 しばらくはコルニグス王国との同盟の安定化に務め、俺が軍勢を率いて魔王軍の領地に攻め込むのはそれからになるだろう。



 ラーバルオもコルニグス王国との同盟を結べたのだから俺自身が主力軍を率いて魔王軍の領地に攻め込む事を望んではいるのだが、今はまだ時期尚早、との思いは俺と同じくする所である。



 しかし、敵は待ってはくれなかった。



 魔王軍の軍勢がこちらに向かっているとの一報を受けて、俺は早速、軍議を開いた。



 こちらの軍勢は黄金獅子王族200弱、白銀獅子王族300弱、獅子族500弱。



 前回のグリフィオスが率いる5000の魔王軍との戦いではこちら側が圧倒的な力で魔王軍を破ったとはいえ、こちらにも死傷者が出なかった訳でもないので兵数は減っている。



 そこに報告によれば今回の魔王軍の軍勢は8000との事だった。



 こちらが約1000の軍勢なので8倍の兵力差だ。

 単体での戦闘力は相手側を圧倒しているとはいえ、この兵力差は流石にいかんともしがたい。



 俺が悩んでいると白銀獅子王族の男、ジルバが声を発した。


「女王様、ここは我々白銀獅子王族が伏兵として潜み、魔王軍を迎撃しましょう」

「ほう。お主たちが埋伏の兵になると言うか」


 ジルバが言うに、自分たち300の兵が城から少し離れた森林帯に潜み、城に攻め込んできた魔王軍を俺自らが率いる兵団が迎撃するのに合わせ、ジルバ率いる300の兵が森から出陣。



 魔王軍の後ろを突き、魔王軍を挟み撃ちの形にし、迎撃。殲滅する。



 それがジルバの提案だった。俺はラーバルオの方を見る。


「ラーバルオ、どう思う?」

「悪くはない提案だと思います。ジルバ殿に白銀獅子王族の兵を預け、この作戦を取ってもらうのが良いかと」

「ふむ」


 ラーバルオも好感触だ。俺もこれは悪くはないと思い始めていた。俺はジルバを見る。


「よし。許可しよう。お主たち白銀獅子王族の力をこの戦地に見せるのだ」

「はっ! それでは、早速、我々は森に出陣します!」


 こうなれば時間との勝負だ。魔王軍が完全にこちらに接近するまでにジルバたちは伏兵として潜んでおく必要がある。急がなければ看破される。



 ジルバは手早く軍勢を纏め、コーラシュマー城より出撃する。



 そうして、俺は残りの兵を纏め、城の外に出て迎撃の準備を取る。

 魔王軍の襲来はそこから大して時間を置かずに訪れた。



 主力はやはりゴブリン、コボルト、オークの亜人地上部隊。これなら数は多くとも単体の戦闘力は獅子族の敵ではない。



 前回との違いは鳥人やワイバーンなどが空挺部隊として、軍に加わっている事だった。



 鳥人も前回の魔王軍の指揮官であった将軍・グリフィオス程の戦闘力を持った者はいないだろうし、ワイバーンは下級の竜種で亜竜とも呼ばれる。ようするに弱すぎて竜扱いされていない竜だ。



 そこまでの脅威ではないが、空からの攻撃もあるというのは厄介でもあった。



 早速、戦端が開かれる。俺が率いる主力部隊・黄金獅子王族の兵団は亜人部隊を真っ向から打ち破って行く。



 兵力では圧倒的に不利な戦であるが、個々の戦闘力が桁外れなのだ。敵になる訳がない。



 空挺部隊の攻撃も厄介ではあったが、戦局を動かすまでには至らない。鳥人やワイバーン相手は跳躍し、豪腕と爪を振るい、撃墜し、仕留めていく。



 そこでジルバ率いる白銀獅子王族の伏兵も動いた。

 魔王軍の背後を突き、不意に現れた伏兵に混乱する魔王軍を次々に討ち取って行く。



 これで自軍の士気も高まる。ジルバの進言を聞き入れておいて正解だったな、と俺は思いながら、敵兵を討ち取って行く。



 女王たる自分が最前線で武を振るう。これも寡兵で戦う獅子族が士気旺盛でいるためには必要な事だ。


「うおお!」


 俺の猛進攻撃。ゴブリンとオーク三匹が纏めて薙ぎ倒され、絶命する。これを決め手に敵亜人部隊は恐慌を起こし、兵が離散し始めた。


「流石ね、ライオ!」

「ライオ様、敵は崩れました。今こそ追撃の時です」


 ライナが俺を称賛し、ラーバルオが戦局を見極め進言して来る。



 今回は追撃し、魔王軍に打撃を与えるつもりでいた。



 俺も追撃の指示を出し、自ら先頭に立ち、魔王軍の部隊を討ち取って行く。



 鳥人やワイバーンたち空の敵も撤退を始めた。

 陸を歩く亜人たちは四足獣の我々、獅子族から逃れられるはずもない。次々に討ち取られて行く。



 流石に兵数では圧倒的に劣る身。全ての敵軍を討ち取る事は出来ず、結構な数を討ち漏らしてしまったが、これで魔王軍もそう簡単にはコーラシュマー城に攻め入ろうなどとは考えないだろう。



 その程度には大損害を与える事が出来た。



 俺は軍団を率いてコーラシュマー城に凱旋する。戦功第一位は当然の事ながら伏兵作戦を提案し、実際に魔王軍の背後を突いてくれたジルバだ。


「ジルバよ。お主の此度の戦での働きは並ぶ者なし。よくやってくれた」

「はっ! 女王様に満足いただけたのならこのジルバ、何よりも冥利につきます」

「満足も、満足だ。今後も俺のために尽くしてくれ」

「無論の事であります」


 ジルバは白銀獅子王族を統括する部隊長に正式に任命するのもいいかもしれないな、と俺は思う。



 勇猛果敢さは文句はないし、それなりに知恵も回るようだ。部隊長としての素質は十分なものがあるだろう。


「しかし、魔王軍、流石の兵力と言った所か」


 俺の呟きにラーバルオが応える。


「ゴブリンやコボルトなどの亜人は所詮、下級の魔物。我ら獅子族の敵ではありませんが、数の多さは確かに流石といった所ですね」

「こちらから攻め込む際には兵力の配分をよく考えなければならぬな。個々の武勇では我らに圧倒的に劣っている身ではあるが、兵数の多さを活かした戦法を取られては相手の城を奪っても維持する事が困難になる」


 点での戦いでは優位に立てるが面での戦いとなると難しい。



 前回と今回の魔王軍の攻撃は目標がコーラシュマー城だけだったこともあり、寡兵の俺たちでも防衛戦を成功させられたが、この先、二つ三つと占領する箇所が増えてくると全ての箇所を守り切る事が難しくなるかもしれない。

 それを考えると……。


「コルニグス王国の人間の兵の手を借りるのも一手かもしれぬな。面の防御を成立させるには我らに力では圧倒的に劣っているといえど使いようがある」

「成る程。それも一考に値しますな」


 俺の言葉にラーバルオは頷く。

 が、難しいだろう、とも思う。コルニグス王国の側も、こちらの側も。



 人間は魔物である俺たち獅子族と共に戦う事に思う事がない訳ではないだろうし、弱者である人間の手を借りる事はこちら側の獅子族の者たちが反発を示すだろう。



 天下の覇者を目指すというのは難しいものだな、とつくづく実感する。



 いずれにせよ、今後の戦略は考えていかねばならない。俺が覇者になるための戦略を。



 ラーバルオの助けも借りながら、俺が覇者に上り詰める戦略を完成させなければ。

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