第9話忍耐の時
今はコーラシュマー城で力を蓄える時であった。
特に兵力は増やしておきたい。
今、味方で使える黄金獅子王族は200弱といった所だが、これに加え、非戦闘員の黄金獅子王族も300程抱えている。
それらは子供だったり、老人だったりだが、老人はともかく子供の黄金獅子王族たちには早く成長して我らが獅子の軍団に加わって欲しい。
俺は城の中を巡回し、ライファスたち子供の黄金獅子王族のいる所に行った。
「女王様!」
ライファスが俺に笑顔を向けて駆けて来る。
俺も笑顔でそれを出迎えた。
どうやら他の子供の黄金獅子王族たちと共に戦闘訓練を受けていた最中だったようだ。指導員の黄金獅子王も俺を見ると俺に一礼し、俺もそれに頷く。
「ライファス、訓練を受けていたのか?」
俺の言葉にライファスは元気良く頷く。
「はいっ! 女王様! ライファスも早く女王様のために戦えるようになるため、精進している所です!」
「うむ、それは良い心掛けだ。他の子たちも皆、頑張っているようだな」
俺がライファスの後ろに控える黄金獅子王族の子供たちを見渡し、声を発する。
女王である俺を前に黄金獅子王の子供たちは皆、大なり小なり緊張している様子であったが、女王直々の激励を前に嬉しげな表情を浮かべる。
「我が誇り高き獅子の子らよ。我ら獅子族の未来はお主たちに掛かっている。お主たちが力を付け、我が手足となってくれるのなら獅子族も安泰と言うものだ。精一杯、鍛錬に励んでくれ」
俺の言葉にライファスを始めとする黄金獅子王族の子供たちは頷き、訓練に戻っていく。
彼らや彼女らがいれば黄金獅子王族の未来も明るいな……俺はそう思い教官に一礼するとその場から去って行く。
さて、ラーバルオを始めとする黄金獅子王族の部隊長たちと今後の戦略に関する軍議の時間だ。
今は力を蓄える時、とはいえ、それで納得しない獅子たちも多いであろう。
それらの説得にまずは心を尽くさねばならぬ。
俺はそう思うと軍議の場に赴いた。ラーバルオ以下、黄金獅子王たちが俺を一礼して迎える。
俺はそれに応えると軍議を始める。
「女王様、これからの方針ですが、魔王軍の城、ガルマー城。あの城の奪取を目指すのはどうですかな?」
黄金獅子王がそう言って、このコーラシュマー城に最も近い魔王軍の城を地図で指し示し、その攻略を提案する。
確かに。まず攻めるとするのならガルマー城であろう。それには異論はない。ないのだが。
「いや、まだ時期尚早だ。魔王軍の城に攻め入るにはまだ我々は準備が整っていない」
俺の言葉に軍議に参加している獅子たちは露骨に不満を示す。
まぁ、それも無理はない。
ここから一気に勢力を拡大しようという思いは俺の中にもある。
だが、まだ早いのだ。ガルマー城を攻めて奪取する事は出来るかもしれないが、維持する事は難しい。勢力を拡大するという事は大きくなった領土の全てを維持する負担を背負う事なのだ。
「ガルマー城の防衛の魔王軍は10000といった所です。ですが、女王様、この程度の数、我ら黄金獅子王族の力の前では大した障害になりませぬ。必ずや攻略出来ます」
「俺とてガルマー城を攻め落とせないとは思っていない。だが、問題はその後だ。この城、コーラシュマー城の維持だけでも手一杯なのにさらに城を増やし、それらを全て維持出来るか? 俺はそれが気になっている」
「それは……確かにそうでありますが……」
城を獲った後の防衛の事に関しては配下の獅子たちにも思う所があるようだった。
我が軍の最大戦力は黄金獅子王族200の精鋭部隊であるが、コーラシュマー城から進軍するのならその精鋭部隊を全て連れて行く訳にもいかないだろう。
同盟を結んだばかりのコルニグス王国に背後を突かれる可能性も考えなければならない。
まだ、コルニグス王国との、人間との同盟は安定していないのだ。
そんな中で精鋭部隊の大半をコーラシュマー城から出して別の城に出向けさせる事はそれなり以上のリスクを伴っていると言わざるを得なかった。
やはり、今はまだ早い。
せめてもう少し。コルニグス王国との、人間との同盟が完全に安定したと見るまではまだ動けない。
俺はそう思い、その意向と軍議で伝える。
「確かに人間どもは未だ信用は出来ませんな……」
「女王様の危惧も最もです。ですが……」
軍議に参加している黄金獅子王たちは俺の懸念も分かる、と言いながらもやはり忍耐の時を過ごすのは性に合わないとガルマー城への進軍を提案する。
俺もラーバルオもやはりそれを時期尚早と却下する。
軍議は現状を維持しつつ、戦力を充実させる事に務めるとの方針で一致し、解散になる。
しかし、部下の黄金獅子王たちが逸っている事は明らかではあった。
まずいな、と思う。
今は俺のカリスマ性と実績でなんとか納得させているが、こうも城に籠もってばかりで魔王軍からの攻撃を迎え撃つだけではいずれ不満が爆発する。
かといって、まだ時間を置いて万全なる態勢を整えたいという思いも禁じ得ない。
当然の事だが、負ける戦はしたくはない。ガルマー城を攻めて、攻め落とせてもそれは戦術的勝利に過ぎない。
その後、ガルマー城の維持が出来ないのであれば戦略的には負けているのだ。
そして、今の自分たちではまだガルマー城とコーラシュマー城の両方を維持する事は難しいと言わざるを得なかった。
獅子族は勇猛果敢で一騎当千だ。だが、いかんせん、兵力は寡兵である。
コーラシュマー城だけの防衛ならその寡兵も誤魔化せるが、ガルマー城まで占領して手を伸ばし、防衛線を広げると手に余る危険性が高まる。
それを思えばやはり今はまだ侵攻の時ではないと判断するしかない。
「ふぅ……」
俺は風呂に入っていた。森にいた時から川で体を洗う事はしていたが、人間の城を奪った今では城の設備の風呂を使う事が出来た。
胸甲も外し、あらわになった巨大な胸を見ながら、全身を洗い流す。そこに一匹の黄金獅子王の女性が入って来る。
「お悩みみたいね?」
ライナだった。当然だが、ライナも胸を隠す布を取っている。目のやり場に困りつつ、ライナの言葉に俺は頷く。
「部下たちは皆、魔王軍の城に攻め入りたくて仕方がないようだ」
「それはそうでしょうね。防衛戦だけに徹するなんて、獅子らしくないもの」
「やはりお前もそう思うか……だが、今はまだ領土を広げる時ではない」
俺の言葉に理解出来る、と言う風にライナは頷く。彼女もラーバルオ同様、今の獅子族の現状を理解している数少ない部下の一人だった。
「せめて後少し……後少し人間たちとの同盟が安定するまで待たねば……でなければ迂闊にこの城、コーラシュマー城を開ける事も出来ん」
「そうね。人間たちとの同盟が安定すれば、ライオが城を開けても安心だからね」
「うむ。だが、今はまだその時ではない。今は城を開ける事など出来ぬ」
俺はライナに言いながら、自らの現状を確認する。
やはり、まだ早い。
人間との同盟も安定していないし、黄金獅子王族は精鋭とはいえ、寡兵だ。
あまり手を広げるのは危険過ぎる。石鹸を付け、体を洗う。
獅子族の者たちは川で体を洗う事はあっても風呂という人間の文化に触れる事は嫌っているようだったが、俺は元・人間という事もあり、風呂を好んでいた。
もっとも、女の体になってしまった今の我が身を実感させられる時間でもあるのだが。
「まぁ、今の所はライオに不満を持っても革命を起こして自分が王になる! ……なんて輩はいないみたいだから、その点は安心していいんじゃないの?」
「そんな事になってたまるか……」
ライナの言葉に苦笑いする。とはいえ、魔王軍の城に攻め入らない俺に不満を持たれているのは事実だ。
なんとか説得しなければならないな、と思う。そう思いながら体をお湯で流し、俺は風呂から上がる。ライナも続き、会話は続く。
「私の見た所によると全員が全員、魔王軍に攻め込みたいと思っている訳ではないわ」
「そうか、それならいいのだが」
「ええ。今はまだ時期尚早。それを理解している黄金獅子王たちもたくさんいるわ。だから、ライオも逸ったりしないでね」
「無論だ」
俺は頷く。とはいえ、俺としても魔王軍に攻め込みたいと思う事も事実。早く態勢を整えて侵攻の準備をしたいものだ、と強く思う。
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