第7話人間との同盟


 捕虜にした人間たちの命を保証し、コーラシュマー城の損傷した城壁や城門の修復をさせる。



 これは獅子族には出来ない事だ。

 獅子族は戦いは強くとも城の損傷を直すなどといった行為は不得手としている。その辺り、人間の力を借りてやってもらうに越した事はなかった。



 そして、人間たちとも戦ってばかりはいられない。魔王軍を敵に回した身、人間とは今の所、協調路線を取ろうと思っていた。


 そのために人間の所に使者を派遣する。



 コーレイグルの町やコーラシュマー城を保有していたのはコルニグスという王国だった。



 その王国とはまずは和睦を結び、協調路線を取る事は軍師・ラーバルオの同意も得られている事であった。



 人間の、コルニグス王国の側からすればコーレイグルの町やコーラシュマー城を奪った我々、獅子族が今になって同盟を結ぼうなどとはとんでもない横暴な態度であろうが、獅子族を敵に回したくないコルニグス王国の意向も読み取り、ラーバルオはこの同盟の申し出をコルニグス王国は受けるだろうと読みを示した。



 実際、コルニグス王国に派遣した使者はコルニグス王国との同盟を見事、成り立たせ、帰って来た。



 コルニグス王国としても脅威である獅子族がこれ以上、自国の領土内で暴れ回らないというのなら、その同盟を受ける事に得はあれど損はないと判断したようだった。



 人間と同盟を結ぶ。

 この事に配下の獅子たちの中には難色を示した者たちもいたが、これから先に必要な事、と俺が直々に声を掛け、説得し、コルニグス王国との同盟を結ばせた。



 俺がコルニグス王国に送った使者の返礼としてコルニグス王国からも人間の使者がコーラシュマー城を訪れ、獅子族の女王たる俺に謁見する。



 俺は使者たちを出迎えた。

 使者たちには緊張の色を伺える。同盟を結ぶ、という約束ではあるものの、人間を遥かに上回る身体能力を誇る獅子王族が多数いる城に派遣されたのだから緊張もするだろうし、恐怖もするだろうから無理はなかった。



 俺はそんな使者たちを安心させるように笑い掛ける。


「使者の方たちよ。貴殿らも魔王軍とは敵対している身。我が獅子の王国も魔王軍とは敵対する身だ。今後はお互いに協力して魔王軍とは戦おうではないか」


 俺の言葉に使者たちは頷く。



 魔王軍は脅威だ。

 先日の俺たちの叛逆に対し、派遣された魔王軍の軍勢は将軍・グリフィオスを討ち取り、撃退したものの、人間の軍などよりは遥かに脅威である。



 勿論、黄金獅子王族は最上級の魔物だけあり、そこいらの魔物には遅れを取らない力を誇っているが、それでも人間の軍よりも脅威である事に変わりはない。



 それに対抗するのなら人間とも手を結び、協力して立ち向かっていく次第だった。


「獅子の女王様、我々も獅子の皆様方が味方に付いてくれるのなら、これ以上、頼もしい事はありません。今後は共に魔王軍と戦っていきましょう」


 人間の使者はそう言い、俺に笑みを向ける。俺もまた笑みを返し、応える。



 とりあえずコルニグス王国との同盟は結べたと見て良かった。



 同盟の証として捕虜にしていた人間たちを解放する事にし、しかし、コーラシュマー城の修復も成さねばならなかったので、コルニグス王国から修復のための人材を派遣してもらう事で合意し、人間の使者たちを送り返す。



 コルニグス王国からすれば勝手に自国の領土を侵略した挙げ句、同盟を結びたいなど傲岸不遜も過ぎるだろうが、黄金獅子王族の圧倒的な力はその理不尽を通すだけのものがあった。



 とりあえずはしばらく人間とは協調路線だ。

 魔王軍を正面から相手にするに当たって、人間の協力も必要不可欠。



 人間の側からしても魔王軍との戦いで最上位の魔物で圧倒的な力を誇る黄金獅子王族が味方に付いてくれるのなら悪い話でもないだろう。



 コーレイグルの町もコーラシュマー城も黄金獅子王族に奪われた形だが、見方を変えれば魔王軍の領地と面していた最上級激戦区を我々、獅子の一族に押し付ける事が出来たという風にも見れる。



 これから先、コルニグス王国の防波堤扱いをされる事は避けられないだろうが、それでも魔王軍と戦う事に異論はない。



 最終的にはコルニグス王国も我が物に収める気ではいるが、今の所は同盟相手として大事にしておこう。



 そうして、魔王軍の次なる軍勢が派遣されるまでの間、コルニグス王国から派遣された人員によってコーラシュマー城の修復は成されていった。



 流石にこういう事は人間に任せるに限る。

 獅子の一族には到底出来ない事を迅速にやってのけ、コーラシュマー城の損傷は修復される。



 戦いをする分には獅子の一族に到底及ばない身ではあるが、このような事をさせる分には獅子の一族をしのぐものがある。



 得意不得意は何事にもあるものだな、と認識を新たにする。



 俺は軍師・ラーバルオに今後の方針を相談する。


「とりあえず、当面の敵は魔王軍だな」

「そうですな、ライオ様。コーラシュマー城の防備につきましてはコルニグス王国との同盟も成立しましたので心配せずとも良いかと」

「うむ。俺が軍勢を率いて魔王軍の居城を攻め落とす事も可能だな」


 俺の言葉にラーバルオは頷く。

 俺がコーラシュマー城を留守にするとその隙に人間がコーラシュマー城に攻め寄せる危険があったが、同盟を結べた今ならばコーラシュマー城を留守にして主力部隊を魔王軍傘下の城に当てても問題はない。


 背後の危険はとりあえずの同盟で去ったのだ。


「ライオ様が軍勢を率い、魔王軍傘下の城に攻め寄せる。そうする事で魔王軍の配下たちも部下に引き込み、ライオ様が覇業を成し遂げるのです」

「分かっておる。我が黄金獅子王族が天下を制する。そのためにも魔王軍は討ち倒さなければならぬ最大の敵だ」


 覇業を成し遂げる。

 それこそが、我が黄金獅子王族の悲願。俺が王となったからにはそれも成し遂げて見せる。



 しばらくは人間と同盟を維持し、魔王軍相手の戦いに専念する。



 人間の側も俺たちが魔王軍と戦ってくれるのなら同盟を結び続けておく分には損はないだろう。



 俺はラーバルオと方針を決定し、部下の黄金獅子王たちの様子を見に城内を闊歩する。



 すると、ライファスが俺に声を掛けて来た。


「女王様!」

「おお、ライファスか」


 幼い黄金獅子王の少女のライファス。

 ライナの妹の彼女は純粋無垢な笑みを俺に向けてくれている。俺も思わず表情が和らぎ、ライファスに応える。


「女王様、人間相手の戦いも魔王軍相手の戦いも勝利を収めて見事です」

「ふ、俺ならばこれくらいは当然の事だ」

「はい。流石は我々、獅子族の王です!」


 ライファスは興奮気味に俺を褒め称える。俺はそれに頷く。


「ライファスも早く大人になって、女王様のために戦いたいです」

「うむ。お主の姉のライナも俺のために戦ってくれておる。お前も我が軍の一員となればこれ以上、心強い事はないな」

「そのためにも早く大きくなろうと思います!」


 そう言って、ライファスは握りこぶしを作る。微笑ましさに俺は笑みを浮かべ、「期待しているぞ、ライファス」と声を返す。


 他にも黄金獅子王や白銀獅子王の子供たちに声を掛けられ、俺はそれに応じる。

 彼ら、彼女らも我が獅子の軍勢を支える次代の精鋭だ。その存在を頼もしく思う。



 俺は次なる魔王軍との戦いに向け、コーラシュマー城を見て回り、そこにいる獅子たちの様子に満足する。



 黄金獅子王も白銀獅子王も皆、戦意を漲らせ、士気旺盛に次なる戦いに備えている。



 これならば次なる魔王軍との戦いも勝利を掴む事が出来るだろう。そう確信する。そうして、玉座の間に戻る俺であった。

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