第6話魔王軍、襲来


 獅子の一族、魔王に叛逆。

 その一報は魔王軍にも人間たちにも知れ渡ったであろう。



 魔王軍には派遣された軍勢を撃滅する事で知らしめ、人間にはコーラシュマー城奪取の戦いの際、捕虜になった人間にその情報を渡し、解放した。



 これで我々、黄金獅子王族が魔王から離反した事は大いに知れ渡ったはずだ。



 そして、森に残して来た獅子の一族もライナが無事にコーラシュマー城に連れて来た。

 これで留守になった森を狙われても問題はない。と、なれば次なる対応だった。



 人間はそうそうこちらには攻めて来ないだろう。



 黄金獅子王の屈強な肉体との圧倒的な力の差は嫌でも思い知ったはずだ。



 しかし、魔王軍はどうか?

 魔王軍を離反した我々、黄金獅子王族に討伐の軍勢を差し向けて来る事は充分に考えられる事だった。



 人間相手は圧倒出来るだけの力を誇る黄金獅子王族であるが、魔王軍配下の魔物とあれば黄金獅子王族に匹敵する魔物もいる。

 俺のもとを去り、魔王軍のもとに行った離反者たちもいる。



 勿論、魔物全体を見渡しても黄金獅子王族は最上位に位置するのでそこいらの魔物程度なら敵にはならないが。



 自前の戦力を考える。俺が率いている黄金獅子王族は200といった所だ。



 これに白銀獅子王族300と獅子が500といった所。



 合計で1000の戦力を持っている。



 勿論、黄金獅子王も白銀獅子王も屈強で人間の軍団などとは比べ物にならないだけの力を誇っているが。


「ラーバルオ、魔王軍は我々に攻撃を仕掛けて来るだろうな?」


 俺はラーバルオに問い掛ける。ラーバルオは頷いた。


「自らに反旗を翻した我々、獅子族を魔王が放って置く事はしないでしょう。相当な大軍の襲来が予想されます」

「ふむ。我々、獅子王族は屈強だ。魔王軍としても並の魔物では相手にならぬが、果たして」


 やはり魔王は俺たち獅子族を討伐するつもりであろう。



 コーラシュマー城の修復はまだ済んではいないが元より敵軍の襲来があれば打って出て迎撃するつもりだったのだ。問題はない。



 魔王がどれだけの大軍を率いて来ても打ち破るだけだ。



 そして、それから数晩もせぬ内に魔王軍は軍勢を差し向けて来た。

 報告によると魔王軍5000がコーラシュマー城目掛けて進んで来ているという。



 指揮官は将軍・グリフィオス。あの鷲の鳥人か、と俺は思う。



 兵数ではこちらの五倍であるが、その程度の兵数の不利は問題ではない、とも思う。



 獅子王族は屈強だ。五倍程度の戦力差なら覆せるだけの力を秘めている。



 俺は配下の獅子たちを集めると号令を発した。


「皆の者! 魔王たちが我々を討伐せんと兵を向けて来ている! だが、それがいかほどのものか! 我々は誇り高き獅子の一族だ! 魔王軍の襲来など跳ね返し、我らの力を見せるのだ!」


 俺の声に配下の獅子たちは大声を上げて、熱気を見せる。



 これなら、いける、と思える。

 兵数では魔王軍に劣っているが、獅子王一族ならばその程度の不利は跳ね返せるだけの力がある。



 俺は軍勢を率いて自ら迎撃に出た。黄金獅子王、白銀獅子王、そして、獅子。1000の内、800が城外に出て5000の魔王軍を迎え撃つ。



 魔王軍の主力はコボルトやゴブリンといった亜人たちに狼族のようだ。



 勝てる。

 いずれも獅子王一族と比べれば遥かに劣る魔物たちだ。



 俺の確信を裏付けるように平野でぶつかり合った両軍は兵数の不利を物ともせず獅子軍が圧倒的優勢に戦いを進めた。



 魔王軍の魔物たちを次々に豪腕と爪、火炎でなぎ倒し、獅子王一族は鬨の声を上げ、敵軍を撃退していく。



 やはり黄金獅子王の一族は魔物の中でも最上位に位置する存在だ。



 5000の魔王軍は次々にその数を減らしていくが、一部、獅子の軍勢が遅れを取っている箇所があった。



 魔王軍の将軍・グリフィオスが直々に指揮する精鋭兵だ。



 グレートコボルトの群れで構成されたその軍は黄金獅子王とも互角の戦いを見せている。この軍を打破しない事には勝利はない。



 俺はそう考え、自らグリフィオスの前に出て、勝負を挑む。


「黄金獅子王の女王、ライオか! この裏切り者め!」


 グリフィオスは俺を見ると睨み付け、罵声を浴びせる。俺は動じる事なく答えた。


「自らの覇業を成すべきと思っただけの事だ!」

「はっ! それが魔王様に仇なすというのなら貴様の首はこのグリフィオスが討ち取ってくれるわ!」

「面白い、勝負だ!」


 そうして、総大将同士の戦いが始まる。

 グリフィオスは長剣を抜き、羽根を広げ、空を駆け、俺に攻撃を仕掛けて来る。



 俺は長剣の斬撃を豪腕で受け止め、炎を吐き、迎撃する。



 魔王軍の将軍・グリフィオスの剣であっても黄金獅子王の俺の体を斬り裂く事はかなわない。



 豪腕を振るい攻撃を仕掛けるが、空を自由に駆けるグリフィオス相手にはなかなか攻撃が当たらない。



 かといってグリフィオスの側も俺に致命傷を与える事は出来ず、互角の戦いが展開される。



 グリフィオスは俺の豪腕を斬り裂く事はかなわぬと見て、俺の首を狙って剣を振るって来るがそれを安々と喰らってやる俺でもない。



 グリフィオスも羽根で空を駆けているが、俺も四本脚で大地を疾駆しながら戦っている。



 激闘が繰り広げられ、グリフィオスが攻撃しに俺のそばに寄った瞬間、僅かな隙が生まれた。



 その隙を突き、俺は豪腕でグリフィオスの足を掴む。



 俺のそばから離脱しようとしていたグリフィオスの足を掴み、地面に引き寄せる。

 グリフィオスは羽根を広げ空に飛び立とうとし、抵抗するも俺の怪力が勝った。



 グリフィオスの体は地面に叩き付けられ、その体に俺は襲い掛かる。



 四本脚で踏みつけ、全体重を掛けてのしかかりを仕掛ける。



 グリフィオスの肉体を引き上げ、豪腕を腹に叩き込む。

 グリフィオスは青い血を吐くが、容赦はしない。



 そのまま豪腕の連撃を繰り出し、ついにグリフィオスは絶命した。



 魔王軍の総大将・グリフィオスを討ち取った。俺は大声を上げた。


「魔王軍将軍・グリフィオス! この黄金獅子王の女王、ライオが討ち取ったーーーーっ!」


 俺の声に獅子軍は勢い付き、逆に総大将を失った魔王軍は混乱する。



 各所で獅子たちは魔王軍の軍勢を打ち破り、ついに魔王軍は撤退を開始した。



 個々の戦闘力では圧倒的に上回っていたとはいえ、兵数では圧倒的に不利だった戦を覆した形であった。魔王軍は敗れ去り、俺たちは士気も高いままコーラシュマー城に戻る。


「女王様、やったんですね?」


 そうしているとライナの妹でまだ幼い黄金獅子王のライファスが俺に声を掛けて来た。俺はライファスにやさしく微笑むと「ああ、やったぞ」と言葉を返す。


「魔王軍は散々に打ち破ってやった。これでしばらくは我々、獅子に手出しをしようとは思わないだろう」

「流石です、女王様。我々、獅子は独立するのですね」

「ああ。誰にも我々の王国の邪魔はさせない。我々はこの地に覇を唱えるのだ」


 我々、獅子たちによる王国。

 それは魔王にも人間にも邪魔させはしない。



 我々を認めぬというのなら掛かって来るがいい。

 我々は全力でそれを迎え撃ち、返り討ちにしてくれよう。



 誇り高き獅子は敵には容赦はしない。俺は軍勢に称誉の言葉を掛け、自らの部屋に戻る。



 とりあえずはコーラシュマー城の修復だ。だが、獅子たちは戦う事は得意でもそういった作業は苦手としている。



 捕虜にした人間たちを動員して城の修復をやらせるか。そんな事を考える。



 この城を拠点に、我々、獅子の一族は覇を唱える。そのためにもこの城は万全の状態にしておくに越した事はなかった。



 自分の胸を見る。大きく膨らんだ女の胸だ。



 覇を唱える事が出来る身分・体に生まれ変わったのはいいが、女である事だけはやはり気になるな、と思う。



 とはいえ、女でも文句は言わせない。覇王になればいいだけの事、と自分を納得させる。



 そうだ。俺は誇り高き黄金獅子王の王。女であれなんであれそれに違いはない。



 俺はこれから先の覇道を見据えるのだった。

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