第5話コーラシュマー城奪取戦、そして、魔王軍への叛逆
コーラシュマー城の奪取のため、コーレイグルの町を占領したばかりの俺たち黄金獅子王族は迅速に動いた。
俺が軍勢を率いて獅子たちは野原を駆け、コーラシュマー城に攻め入る。
ライナが上手く後方に待機している獅子族の非戦闘員たちをこちらに連れて来てくれればいいのだが、と少しの懸念を抱えつつも、俺は軍勢を指揮し、コーラシュマー城を攻撃する。
案の定、人間たちは外に出て迎撃を選ばず籠城を選んだ。
それは正解だろう。騎兵も歩兵も、黄金獅子王族とまともに戦えるだけの力を持ってはいない。
外に出て迎撃するなど愚の骨頂。
直接対決を避けて城に籠もるのは正しい判断だといえた。
今回も戦力差はこちらが1350に対し、相手は5000程。
兵力では不利だが、そんなのは獅子の戦争ではいつもの事だ。
多少の兵力差など覆せる。脆弱な人間など敵ではない。
特に俺自らが指揮する黄金獅子王族300には一騎当千の力があった。
俺は黄金獅子王族を指揮し、コーラシュマー城を包囲させる。
コーラシュマー城からは弓や弩を使った攻撃、落石攻撃などが飛んで来るが、それらを苦にする黄金獅子王族ではなかった。
矢も石も黄金獅子王族の屈強な肉体を殺めるには至らない。
それでも煩わしい事には変わりはなく、俺は少し苛立ちげに「城を攻略せよ!」と号令を発する。
黄金獅子王族は城の城門に群がり、豪腕で城門を攻撃する。
人間であればその腕で城門を突破するなど不可能な事だが、黄金獅子王族の豪腕ならば城門を破壊する事も可能となる。
最も、流石に一つの城の門だけあってすぐには壊れてはくれなかったが。
他にも配下の黄金獅子王たちは城壁にも豪腕を叩き付け、炎を放ち、攻撃を開始する。
城に籠もった人間たちは必死に弓矢を射掛けて抵抗するものの弱矢などで黄金獅子王の肉体を貫く事はかなわない。
城に籠もる人間たちの恐怖の感情が伝わって来るかのようであった。
俺は鬨の声を上げさせ、黄金獅子王たちに一斉に城門・城壁を攻撃させる。
俺自身も先頭に立ち、城門を殴り付ける。
そして、ついに城門は破れ、黄金獅子王たちは城内に突入した。
こうなれば人間たちも剣や槍を持って戦うしかない。しかし、そんなものでは黄金獅子王に対抗する事など出来ない。
城外で待たされていて鬱憤が溜まっていたのであろう。黄金獅子王たちは城内に突入すると人間の兵士たちを蹂躙した。
剣や槍の攻撃を弾き、豪腕や四本脚の爪で人間たちの体を引き裂き、次々に倒す。
城内は至る所で人間たちの悲鳴が上がり、突入した黄金獅子王たちが城を制圧するのにそう時間が掛かるとは思えなかった。
事実、玉座の間はすぐに占領され、俺は玉座の間に着く。
下半身が獅子の体になっている黄金獅子王の体の都合上、玉座に腰掛ける事は出来なかったが、玉座を俺が制した事は大きな意味を持って、人間たちの戦意を喪失させ、黄金獅子王たちの士気を最高潮に向上させた。
「ラーバルオ、コーラシュマー城もほぼ制圧したと見て良いな?」
俺はラーバルオに声を掛ける。彼も豪腕を振るい、人間たちを蹴散らし、俺と共に玉座の間に攻め入った身であった。
「はっ。この城はもうライオ様の手に落ちたと見ていいかと」
「ふむ。それならば獅子たちに命令を出せ。この城は我らの城とする故、不必要な破壊は避けるように、とな」
「了解です。ですが、獅子たちはいきり立っております。その命令が行き届くかどうかは怪しい所ですな」
「そうか。困ったものだ」
やはり知性があるとはいえ、獣は獣だ。破壊するだけ破壊してしまうだろう。
これから、この城を拠点として魔王に叛逆する身としてはあまりこの城を破壊されるのも困るのだが。
とりあえず、城は制した。しかし、この城を拠点とする以上、とりあえず城門は修復せねばならないだろう。
魔王の軍勢と人間の軍勢。双方と戦わなければならないのだ。
相手が余程でもない限りは城外に出て迎撃すればいいだけの話だが。黄金獅子王の肉体にはそれだけの力が備わっている。
かくして時間をおかず、コーラシュマー城の制圧は完了し、俺は部下を集め、声を掛けた。
「この度の戦、見事であった! この城は我ら黄金獅子王族の手に落ちた!」
わっ、と歓声が鳴り響く。黄金獅子王たちは自らの力と成果に酔いしれ、万感の思いで俺の言葉を聞く。
「そして、我が配下の誇り高き獅子たちよ! 今こそ、我が真意を貴様らに告げようと思う!」
続いた俺の言葉に獅子たちは少し怪訝そうな態度になる。だが、熱意の高さは動かず、俺の言葉に耳を傾ける。
「これまで我々、黄金獅子王たちは魔王の傘下に甘んじて来た。だが、それも、もう終わりだ。我々、獅子族は魔王の傘下から離脱する! 独立し、自らの王国を築くのだ!」
俺の言葉に獅子たちには露骨な動揺が走る。
それも仕方がないか。
ここに来て初めて、俺は魔王への叛意を明らかにしたのだ。困惑がひとしきり獅子たちを埋め尽くしたが、その後にあったのは熱狂だった。
「おお! 魔王の配下の座などから脱するのだ!」
「魔王に仇なす! やってやりましょう、女王様!」
「我々は独立するだけの力を秘めている! 今こそ! 独立の時!」
「この誇り高き黄金獅子王! 魔王などにいつまでも付いてはおれませぬ!」
どうやら配下の多くは俺の言葉に賛同してくれているようだった。
歓声が鳴り響き、獅子たちの咆哮がその場を埋め尽くす。
流石に俺は安心していた。ラーバルオの読み通りなら八割は自分に賛同してくれる、との事だったが、ここに来て、配下に離反されるのでは、との不安はあったからだ。
「魔王様に逆らうなど何事だ!」
そんな中、一匹の黄金獅子王がそう叫び、俺に詰め寄ってくる。
周りの目が集まる。八割は賛同する。ならば離反者が出てもおかしくはないのだが、一匹の離反者も出ないで欲しかった身としてはやはり落胆があった。
その黄金獅子王は群れを抜けて、俺に迫る。俺は「俺に従えないか?」と声を発する。
「無論だ! 魔王様からの離反など、貴様は我らの王として相応しくない!」
「ふむ……では、掛かってこい」
「ぐおおおっ!」
従わない者には力で無理やりにでも従わせる。
当初の方針通り、俺に向かって来た黄金獅子王を俺は迎え撃つ。
振るわれた豪腕の一撃を受け止め、反撃の豪腕を相手の腹に叩き込む。
「ごふっ!」と血を吐いた黄金獅子王を俺はさらに追撃の豪腕で叩きのめす。
やがて、その黄金獅子王は地に倒れ伏した。ラーバルオが叫ぶ。
「他に女王様に逆らう者はおるか!?」
誰も名を上げる者はいなかった。
一拍置いて、「女王様が正義だ!」「魔王からは離反するのだ!」と俺に賛同する声を返してくる。
不満のある者もいるだろうが、過半数の黄金獅子王たちは俺に従い魔王からの離反の道を選んだようだ。
だが、離反者がいない訳ではなかった。
黄金獅子王の300の内100、白銀獅子王の450の内、150、獅子の600の内100は俺に離反し、魔王軍の元に去って行った。
大体、ラーバルオの予想通りの離反率であった。
兵の数は減った。
特に精鋭の黄金獅子王100匹の離脱は痛い。
しかし、魔王軍から独立した獅子の一族の熱気は高い。
そうして、熱気が冷めやらぬ、翌日。魔王軍から人間の城の奪取を褒め称える名目で魔王軍の一軍が派遣されて来た。
俺はそれを玉座の間で出迎える。
「黄金獅子王族の長、ライオ殿。この度の人間相手の戦は見事。その調子で魔王様のために貢献してくれ」
その魔族の男に俺は「ああ、その事なのだが」と告げる。
「何か?」
「我々は独立する事にした。もう魔王の傘下には付かない」
「な、なんだと!?」
魔族の男は動揺をあらわにする。
俺のそばに控えていた黄金獅子王たちが揃って、魔族の男に敵意を向け、魔族の男は後ずさる。
「貴様! 魔王様に叛逆する気か!?」
「そういうことになる……な!」
俺は四本脚で地を蹴り、一気に距離を詰め、豪腕を振るう。
その魔族の男はそれで絶命した。
俺の号令が響き、コーラシュマー城に訪れていた魔王軍の軍勢に一斉に黄金獅子王たちが襲い掛かる。
魔王軍の軍勢が相手といえど、黄金獅子王は遅れを取らない。
またたく間に魔王軍の軍勢を撃退し、一部は逃げ帰った。
これで魔王にも俺たち黄金獅子王族の離反は知れ渡る事になる。
「いよいよだな、ラーバルオ」
「はっ」
俺の言葉にラーバルオは頷く。
ここからだ。
俺の覇道はここより始まるのだ。
俺は城壁に登り、遥か彼方の地平線を見る。
黄金獅子王は天下の王たる者。地平線の彼方まで征服して見せよう。俺は、そう思うのだった。
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