第4話獅子の軍勢、進軍開始
魔王から独立のためのコーラシュマー城の奪取のための前段階。コーレイグルの町の攻略。
それを俺は全軍に告げた。表向きは魔王のため、人間の軍勢を削ぐ目的で侵攻を掛けるとしている。
上半身が人間で下半身が獅子の黄金獅子王族も、それに次ぐ白銀獅子王族、人間の体を持たない獅子族たちも歓声を上げて、俺の言葉に応じる。
人間は敵、と多くの獅子族たちは認識しているのだから、その人間に攻撃を仕掛けるのだから無理もない反応だった。
俺も女王として、大軍を率い、平野を駆けコーレイグルに攻め寄せる。
四本の足で大地を疾駆しながら、軍師のラーバルオに声を掛ける。
「ラーバルオ、コーレイグルの町は攻め落とせると思うか?」
ラーバルオは同じく四本の足で高速で大地を駆けながら、答えを返す。
「問題ないでしょう。人間の軍勢が立ちはだかる事でしょうが、我々黄金獅子王族を止めるにはいたりません。下級の獅子たちは止めれても我々、黄金獅子王族には人間など敵ではありません」
「そうか、それならば良いのだが」
俺は前回、コーレイグルを攻めた時と同様に先陣を切って、人間の軍に攻め寄せた。
黄金獅子王族の女王たる身。最前線で武を振るう事でもしなければ血気盛んな部下の獅子たちは付いて来ないのだ。
俺の実力は既に一族の中に知れ渡り、女王として俺は認められている身ではあるが、常に女王としての威容を示し、カリスマ性を見せつけなければならない。
俺は立ちはだかる人間の軍勢を前に暴勇を振るう。
こちらの軍勢は前回と同じく、黄金獅子王族300に白銀獅子族450、獅子族600の1350。
敵兵は3000弱。兵力的には圧倒的に不利だが、そんな不利を覆せるだけの力が獅子族にはある。
騎乗し、剣や槍を持って攻め寄せてきた敵兵の攻撃を黄金獅子王族の肌で受け止め、豪腕を振るい、鎧に叩き付ける。
黄金獅子王族の豪腕の一撃を受けた鎧はその役目を果たせず砕けひしゃげ、中の肉体を破壊するのに充分たるものだった。
人間たちは恐れつつも騎兵の群れが俺に迫り掛かり攻撃を仕掛ける。
それらを俺は豪腕を振るい、次々に討ち倒し、面倒と見ると口を開き炎を吐き、騎兵たちを蹴散らした。
遠距離から弓や弩を射掛けてくる人間たちもいたが、それらは黄金獅子王族の屈強な肉体を貫くには至らない。
黄金獅子王族は伊達に最上位の魔物である訳ではないのだ。
並の人間に相手になる存在ではない。
俺は部下の黄金獅子王族を率い、進撃し、コーレイグルの町の防衛網をいとも簡単に粉砕する。
騎兵も歩兵も蹴散らし、人間たちを倒す。
剣、槍、矢。それらが肌身に到来するも黄金獅子王族の肉体はそれらを弾き返し、逆に鎧兜に身を包んだ人間の防御を黄金獅子王族の豪腕はいとも容易く突破し、人間たちを次々に倒して行く。
今は黄金獅子王族の女王。それでも元は人間だった身。
あまり人間たちを殺したくはなかったが、人間たちも必死でこちらに抵抗して来る。
加減を加える余裕はなかった。
それでも剣や槍で立ち向かって来る兵士たちはともかく戦う力を持たない民たちを一方的に殺すのは流石にはばかられたので民たちに逃走する時間は与え、また、無理な追撃は行わず、逃げる者は追わず、立ち向かって来る者のみを倒すように全軍に号令を出した。
最上位の魔物たる黄金獅子王族の女王らしからぬ命令に疑問を抱いた部下たちも大勢いたようだが、立ち向かって来る者のみを倒す。闘志無き者は捨て置け。それが獅子の誇りに繋がる、と言う俺の言葉に全く頷けない訳でもなかったらしい獅子たちは俺の命令を聞き、逃げる者は追わず、こちらに性懲りも無く抵抗を続ける人間の兵たちを相手にするのに専念するようになった。
黄金獅子王族は基本的に武器を持って戦う事はしない。何故なら剣や槍や斧を持って戦うよりその屈強な肉体・豪腕から繰り出される一撃を叩き付けた方が余程、相手にダメージを与えられるからだ。
実際、俺たちの豪腕は敵兵の鎧や盾を砕き、その体を粉砕している。
遠距離攻撃が必要な時に弓を構える事は稀にあるが、基本的に黄金獅子王族はその恵まれた肉体で戦うのが一番なのであった。
こうして一晩に渡る戦いの末、コーレイグルの町は俺たち黄金獅子王族の手に落ちた。
歯向かう者は皆、殺され、逃げ出した民たちは住居を捨て、いずこかへと去った。
コーレイグルの町に入り、俺は号令を発する。
「全軍! 此度の戦は見事であった! 脆弱な人間相手の戦、我ら獅子たちが遅れを取る事などあり得なかったが、それを差し引いても、見事な戦いぶりであった!」
俺の言葉に獅子たちは満足げに聞き入る。
圧倒的優位な戦いを制しただけの事。
そこまで誇れる事でもなかったが、それでもこうして口に出して称誉の言葉を受けるのと受けないのでは軍の士気が違う。俺は続けて発する。
「だが、これで満足するな! コーレイグルの町の占領など前段階に過ぎぬ! 我々の目的はこの先、コーラシュマー城の奪取だ!」
この言葉には獅子たちは少しの動揺をあらわにする。
コーラシュマー城が目的というのは獅子たちの中でも限られた者たちにしか話していない情報だ。
だが、動揺を飲み込み、獅子たちは血気盛んに声を上げる。
「おおおおおお!」
「人間たちの城を奪い取るのだ!」
「やりましょう、女王様!」
俺の言葉に獅子たちは猛り狂い、士気も最高潮に達する。
これならばいける、と俺は思う。
コーラシュマー城にも人間の兵士は多く詰めかけている事だろうが、それらを粉砕し、城の奪取をやり遂げる事が出来る。
俺はそう確信する。そうして、コーラシュマー城を手にしたあかつきにはついに魔王からの独立を宣言するのだ。
我ら黄金獅子王一族による王国を築く。その目的を胸に俺はいきり立つ部下の獅子たちを眺める。
「とりあえずは順調、と言った所ですな」
そんな獅子たちを見て、軍師のラーバルオが満足げに告げる。
「ライオの目的を達するために必要な条件は整ったわね」
笑みを浮かべるライナ。ラーバルオもライナもコーレイグルの町の攻略で人間相手に大いに奮闘してくれた身であった。
「ライナ、お前は次の戦には出るな。森に残してある子供の黄金獅子王や獅子たちをこちらに移す役目をやってもらいたい」
コーラシュマー城を拠点に魔王に反旗を翻すのだから、一族の者たちを森に残しておく訳にはいかなかった。
ライファスも森に残してきているのだ。ラーバルオに頼んでもいい事だったが、攻城戦となると流石の黄金獅子王の軍勢といえど不安要素もある。
軍師である彼はそばにおいて置きたかった。
「わかったわ。気付かれないように、慎重に、ね」
「そういう事だ」
ライナも心得ているようで俺は安心する。
「コーラシュマー城の攻略戦ですね。力押しでもある程度はいけると思いますが、城に籠もられると流石の我々、黄金獅子王族といえど、少しの苦戦は避けられないでしょう」
「そこでお前の知恵が必要になってくると言う訳だ。ラーバルオ」
「心得ております。まぁ、最終的には力押しになると思いますが」
城に籠もられれば厄介とはいえ、黄金獅子王族には人間を遥かに凌駕する圧倒的な戦闘力がある。
決して負ける事は有り得ぬ戦である事は分かっているが、念には念を入れておくに越した事はない。
特に閉じられた城門を破る破城槌は獅子にはない技術だ。
城門をこじ開けるのは少しの手間が掛かる事だろう。
それでも黄金獅子王族が負ける事は有り得ない。
人間が城に籠もり矢を射掛けて来ても落石攻撃をして来ても、それらは屈強な黄金獅子王の肉体を倒すには至らない。
いずれ攻め落とせる事であろう。俺はそれを再認識し、それでも弓や弩の攻撃に対抗するために黄金獅子王たちの一部には弓を持たせておくか、と試算する。
口から吐く火炎の攻撃でもある程度は遠距離攻撃もこなせる身ではあるが。
ふむ。こうして考えると黄金獅子王族も無敵と思ったが、足りない点もまだまだある。
これからコーラシュマー城を占拠し、魔王から独立をした末にはそうした欠点も補い黄金獅子王族をさらに完全な一族にするべく工夫を凝らす必要があるな、と思う。
「なんにせよコーラシュマー城の奪取だ。それがなければ始まらん」
俺の言葉にラーバルオとライナは頷くのだった。
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