第12話新参の獅子たち
ガルマー城の破損箇所の修復はコルニグス王国から派遣された人間の手を借りて行われた。
それが終わると次は屯田を敷く準備である。配下の黄金獅子王や白銀獅子王たちに田んぼを作らせ水を近くの川から引き入れ、田んぼの体裁を整えさせる。
正直に言ってこの屯田を作るという作業にはあまり自信はなかった。配下の獅子たちも悪戦苦闘しながら、作業を行っている様子が伺える。
やはり獅子たちは戦いには強いがこういう内政をやらせる分には向いていないな、と実感する。
それでもなんとか屯田が完成したので、獅子たちには農業に従事してもらう事になった。
とりあえず、このガルマー城を獅子族の前線拠点として作り変えなければならない。屯田を敷いたのも、そのためだ。
魔王軍の次なる城、ケルビム城に攻め込むのはまだ少し先の話になる。
配下の獅子たちはその事を不満に思っているようだが、少しずつ足場を固めていかなければ。
幸い、俺もまだ若い。時間はたっぷりある。
ならばゆっくり、準備を整えるだけだ。ガルマー城を占領してから、コーラシュマー城に残してきた兵250の内、100をガルマー城に移し、ガルマー城には約850の戦力がある。
獅子族だけあり、皆が一騎当千の強さだが、それでも寡兵には違いはない。
この兵数では出来る事にも限りがある。ガルマー城攻略の際に捕虜にした魔物たちに寝返らないかと言った事である程度のゴブリンやコボルトは俺に従うようになっているが、所詮、捕虜になってから寝返った身である。
いつまた再度寝返るか分かったものではないので、扱いは慎重にする。コーラシュマー城にいる非戦闘員の黄金獅子王族の中で実戦に使えるようになった獅子はこちらに送るように命令を出しているのだが、さて、何匹の獅子が送られてくる事か。
俺はそれを期待し、待った。そして、獅子たちがやって来た。
黄金獅子王族100、白銀獅子王族200、獅子300の合計600の兵だ。
これだけあれば出来る事も広がる。新たに戦線に参加する事になった獅子たちを俺は見て回っていると見慣れた顔を見かけた。
「ライファス!? お前も、もう戦に参加するのか?」
そう、ライナの妹、ライファスである。彼女は黄金獅子王族とはいえ、まだ幼く、戦いに参加出来るのはまだ先だと考えていた。しかし、ライファスはコーラシュマー城からこのガルマー城にやって来た増援の中に確かに含まれている。ライファスが俺を見て、笑みを浮かべた。
「はい。女王様。このライファス。戦いに参加します」
「そうか……大丈夫なのか?」
「訓練は一通り受けました。いつでも女王様のために戦う事が出来ます」
そう言って、握りこぶしを作って見せるライファス。彼女も戦いに参加するのか。
ライファス以外にもまだ子供の黄金獅子王や白銀獅子王もいた。子供を戦線に投入するのはあまりやりたくない事だが、兵力不足は深刻だ。それを少しでも解消出来るのなら、やるしかないだろう。
実際、この600の兵が加わりガルマー城の兵力は1450まで増えた。
これだけあれば少しは余裕を持って物事を行う事が出来る。
まだケルビム城に攻める気はないが、攻める時にも兵力を分散させても問題はないだろう。とりあえず新たに加わった兵にも屯田に参加させ田んぼを耕す。そうしてると一報が、入って来た。魔王軍襲来。その一報である。
「早速、このガルマー城を奪還しに来たか……!」
苦々しげに俺は言い、軍師・ラーバルオが頷く。
「はっ、魔王軍はこのガルマー城を自らの手に戻したいのでしょう」
「そのようだな。敵兵の数は?」
「約10000だそうです」
一万。やはり兵力では圧倒的に俺たちは劣っている。それでも一騎当千の獅子たちならば兵力差を覆す事が出来るはずだ。
「コーラシュマー城から来た新兵を前に出せ。奴らの実力を見ておきたいし、実戦経験も積ませておきたい」
「承知しました」
ライファス含む、まだ子供の獅子族を前線に立たせるのはどうかとも思うのだが、彼らも一人前としてこの城に派遣されて来た者たちである。
ならば一人前として扱い、その戦闘力を見るのが礼儀と言うものであろう。
そうして、俺も城外に出て、戦が始まった。
魔王軍の軍勢相手にライファスたち新参の獅子たちは奮闘し、魔王軍を蹴散らしている。や
はり幼くとも黄金獅子王に白銀獅子王。そこいらの魔物相手にはまるで遅れは取らない。
俺が新参の獅子たちの戦いぶりに満足していると一匹の巨大な魔物が現れた。
魔象パイフォームだ。こいつは単独で城をも壊す事が出来る化け物だ。
魔王軍も結構な戦力を投入して来る、と俺は舌打ちする。ガルマー城を奪還したいだろうにガルマー城を破壊するつもりか。
あれの相手は新参の獅子たちには荷が重いであろう。俺は声を発し、前に出た。
「全軍、俺に続け! 魔象パイフォームを仕留めるぞ!」
俺の言葉に獅子たちは続き、パイフォームの元に行く。そうして獅子たちと共にパイフォームに攻撃を仕掛ける。
豪腕で叩きのめしたり、爪で斬り裂いたり、火炎放射を浴びせたり、そうやって攻撃を仕掛け続け、俺の豪腕の一撃がパイフォームの体をえぐり、ついにパイフォームはその巨体を倒れ伏させる。ワッと、歓声が湧く。
「パイフォーム、討ち取ったりーーっ!」
俺は士気を上げるべく声高に叫び、パイフォームの撃退を全軍に知らせる。獅子の軍勢の士気は上がり、逆に敵・魔王軍の士気は下がる。
「流石ね、ライオ」
その様子を見守っていたライナが声を掛けて来る。俺は頷いた。
「これくらいはな。お前の妹のライファスの活躍も見事だ。ライファスだけではないが、子供といっても流石は黄金獅子王に白銀獅子王。そこいらの魔物相手には遅れは取らないか」
「ええ。ライファスもよくやってくれているわ」
「これが初陣とは思えんな」
そう言って、前線で戦う新参の獅子たちの方に視線を移す。
彼ら、彼女らは奮戦し、敵を蹴散らしている。
皆、初陣と言う事を考えれば見事、という他ない。
誇り高き獅子の一族は多少、幼くとも負けはしないのだ。そうしている内に敵軍は瓦解し出した。
今こそ絶好の機会。そう判断した俺は軍勢を率いて敵軍に突撃する。
ただでさえ、瓦解しかけていた所に俺率いる精鋭軍の突撃を受けて敵軍は完全に崩壊。
逃走・離散が相次ぎ、もはや、軍勢としての体裁を成してはいなかった。
魔王軍を撃退し、俺たちはガルマー城に戻る。完全勝利の末の凱旋であった。俺は兵たちを集め、激励の言葉を発する。
「皆の者、此度の戦いでも見事な活躍であった。魔王軍を追い返せたもの皆のおかげだ」
俺の言葉に獅子たちは満更でもなさそうに頷く。その末に俺は言った。
「特にコーラシュマー城から来たばかりの新兵の皆。これが初陣とは思えぬ見事な戦いぶりであった。大いに感動している」
ライファスたちが照れ臭そうにする。新兵の皆も十分、戦える事が分かった。これなら兵力も多少は補う事が出来るだろう。
それを思えば新兵の皆がやって来てくれたことはありがたい事この上なかった。
「皆の力があれば魔王軍など敵ではない。皆、これからも俺のために力を尽くしてくれ」
締めくくりにそう言って俺は踵を返す。ワッと兵たちは湧き立っているのが背中で感じられる。
さて、やはり獅子の軍勢は強力だ。魔王軍など相手にならない。これなら、俺が覇者になる事も決して不可能ではない。
その事を確信しながら、次なる戦略を練るためにラーバルオを呼び寄せるのであった。
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