異世界のチート最上位魔物・黄金獅子王一族の女王に転生したんだが
一(はじめ)
第1話黄金獅子王に転生
「くっ……ここまでか……」
俺は観念し息を吐いた。
平凡な冒険者の俺はギルドに所属し、魔物退治をして日々の金を稼ぐ毎日だった。そんな中で少し難易度の高い依頼にこれは行けるかも、と挑戦してみたのだが、結果は散々だった。
安物の革鎧は破れ、鮮血がしたたる。
強力な魔物の大群と戦った結果、体中は傷だらけで愛用の剣もへし折れている。魔物の豪腕は胸を貫き、致命傷なのは明白だった。俺の人生もここまでか。俺はここで無様に野垂れ死ぬのであろう。それを覚悟する。
(何か、やり遂げたかったな……)
男児として生を受けたからには何か大きな事をやってみたかったという悔いはある。
冒険者として危険と隣合わせの日々を送っていたのも何かが出来るかもしれないという思いがあったからだ。
だが、それも自分が命を落としてしまっては何の意味もない。後悔先に立たず。俺はか細くなっていく自分の息、冷たくなっていく自分の体を自覚しながら、ついに意識を失った。
そうして、目覚めた。ここは、どこだ? と思う。
俺は死んだはずだ。あの状況で生きていられるはずはない。俺は確かに死んだのだ。
そうして俺の腕を見てギョッとする。
腕の長さがおかしい。大人の長さだった腕は子供の腕のように短くなっているし、何より、その腕には金色の体毛で覆われていた。俺の腕にこんなものはまとっていなかったはずだ。
驚いて立ち上がる。そこでも驚く。
俺は二本の足で立ち上がったつもりだったのだが、俺の下半身はケンタウルスのように四本の足で構成されていた。
その四つの足の先にも鋭い爪が付いている。
体が、おかしい。俺の体の上半身は人間のようではあるが、下半身は馬のように四本脚。
そして、体中を黄金の体毛が覆っている。これは明らかに人間の体ではない。
俺は驚愕していると、「おお、目覚めたか、ライオ」と声が掛けられた。そちらを見てギョッとする。黄金獅子王だ。
そこにいたのは人間に近い筋肉隆々の上半身を持ちながらも服の類は纏わず、黄金の体毛が体を覆っている男だった。
下半身は今の俺と同じく馬のように四本脚でやはり黄金の体毛がそれを覆う。
そして、何より顔が黄金のたてがみに覆われている。黄金獅子王。目の前にいるのはその魔物に間違いはない。
黄金獅子王は数多くいる魔物の中でも最上位の魔物だ。
その豪腕は鉄をも砕き、その爪はあらゆる物を斬り裂き、その俊足は馬をも遥かに上回る速さを誇る。さらに口からは火炎を吐き、知性も高く魔法を唱えるものもいる。
そんな最上位の魔物が俺に親しげに声を掛けて来る。
一体何事だ、と思ったが、よくよく考えて見れば今の俺の体もその黄金獅子王そのものではないかと気付いた。
なんだ、これは。一体、どうなっている。
「ライオ、お前は女だが、俺の娘、後継者として獅子族を率いていかねばならん。そのために鍛錬と勉学に励むのだぞ」
この黄金獅子王は俺を娘と言った。そして、親しげに声を掛けて来る。俺は「父上……?」と声を返す。その黄金獅子王は俺の言葉に頷く。
「うむ。俺がお前の父で、今の獅子族の長、ライネルだ。産まれて間もないのに言葉を発するとは。流石は黄金獅子王一族の一匹。聡明なようだな」
その黄金獅子王、ライネルの言葉に呆然とする。
どうやら、俺はこのライネルの娘の黄金獅子王ライオとやらのようだ。
生まれ変わり。その単語が俺の頭の中に飛来する。
俺は人間として死んで、この黄金獅子王に生まれ変わってしまったのか?
魔物の中でも最上位の力を秘めたこの黄金獅子王に。しかも、女だ。
俺は呆然としたが、ふらふらと四本脚で立ち上がり、歩みだす。この四本の足は不足なく俺の生まれたてとは思えない屈強な体を支えてくれているようだ。
そこから俺の黄金獅子王として人生が始まった。
父王の下で鍛錬と勉学に励む毎日。森の奥深くを根城とし、父王や王女たる自分に訪れる黄金獅子王の下級種・白銀獅子王や獅子たちと会話をしたりしながら、日々を過ごす。
あっという間に日々は過ぎていった。
人間の記憶を持つ俺は最初は獣としての生活に戸惑ったものの、やがて俺も黄金獅子王としての生活に慣れて、日々を過ごす。
黄金獅子王とはいえ、女の体をしている事にも戸惑った。下半身には生殖器として付いているのは男のアレではなく女のもので、胸は成長していくにつれて膨らんでいった。
そんな戸惑いの日々を送る中で俺は今回の人生。黄金獅子王としての自分ならば前回の人生、人間としての人生では出来なかった事が出来るのではないかと思い出していた。
一旗上げる。父王は魔王の傘下に収まっているらしい。
それが俺には不満だった。黄金獅子王は人間に近い上半身を持つ。その両腕を使って道具も使える。俺は父王と共に弓を持ち兎狩りをしていた最中、父王に問い掛けた。
「父上、何故、魔王の傘下などに収まっているのですか?」
父王は意外だ、と言うように俺を見返した。
「何を言うライオ。魔王様は我ら魔族を束ねる帝王たるお方だ。我々も魔族の一端。それに従うのは当然の事だ」
「ですが、我々とて王の称号を持つ獅子族の長。魔王から独立し、自らの帝国を築いても良いのではないですか?」
「ふむ……」
俺の事を計るように見る父王。「お主は随分と野心家だな」と笑みを浮かべて言った。言葉の割りにあまり責め立てるような、不快そうな色はなかった。
「いずれはそういう日も来るかもしれぬ。いや、お主の代でそれを成すのかもしれぬな」
そう言って父王は笑うだけだった。
そんな父王との狩りのやりとりの後、俺は黄金獅子王ライナと話していた。ライナは女性だ。俺とは幼い頃からの付き合いで幼馴染にあたる。ライナに対して俺は話し掛ける。
「やはり魔王の傘下にいる今の獅子族の現状を許す事は出来ない。俺が父王に代わって獅子族の長になった日には魔王からの独立を成し遂げて見せる」
「ライオ。貴方は随分、野心家なのね」
「父王にもそう言われたよ」
困ったように笑うライナ。俺が本気で言っているとは思っていないのかもしれないが、これは本気だ。
「貴方のそういう所、私は嫌いじゃないけど、言葉には気を付けなさいよ? 魔王様に忠誠を誓っている獅子族のものもいるんだから」
「我々、獅子族は誇り高き存在だ。断じて魔王の傘下に収まるなど許し難い事だ」
俺は断固としてそう言い切る。ライナとそんな話をしながら、俺たちは過ごした。
魔王軍傘下の黄金獅子王として人間との戦いに駆り出される事もあった。俺は前世の人間だった記憶があるから人間とは積極的には戦いたくなかったが、相手も黄金獅子王という最上位の魔物を相手によりすぐりの精鋭でやって来る。本気で戦うしかなかった。
父王や部下の黄金獅子王、白銀獅子王や獅子たちの手前もある。 俺が豪腕を振るえば人間たちが纏っていた鋼鉄の鎧も砕け散り、爪を振るえば肉を断ち鮮血が飛び散った。
女の身とはいえ、黄金獅子王の体。人間を遥かに上回る身体能力を誇る。
人間はあまり殺したくなかったのだが、戦わなければいけない以上、仕方がなかった。それでも積極的な追撃をしたりする事は控え、人間の側にあまり被害が出ないように務めた。
そうして黄金獅子王としての日々を過ごし、住処の森の中も全て知り尽くし、武勇と勉学にも務め、俺は父王の後継者として女ながらも部下の黄金獅子王や白銀獅子王たちにも認められるようになっていた。
黄金獅子王の一族とはいえ、女性の体はやはり俺に困惑をもたらすものであったが、それにも慣れていった。
胸がどんどん大きく成長していくのにだけは勘弁してくれ、という思いだったが。今の俺は胸の下半分を鎧で纏っている。
俺は体は女とは言え、心は男なのだから別に胸を露出しても恥ずかしくないのだが、胸を丸出しにしたまま黄金獅子王の速力で走ると大きな胸がぶるるん、と一々、揺れるのだ。
それは流石に耐え難いので他の女性の黄金獅子王同様、胸甲を纏って戦っている。
そうして、父王の下で次代の王として戦いに明け暮れる。そんなある日の事だった。
父王が病に倒れた。
父王は俺が産まれた時から既に黄金獅子王としてもそれなりの高齢で俺が成人している今ではかなりの老齢であった。
それだけにいつ倒れてもおかしくなく、ついに来たか、というのが、俺も部下の黄金獅子王たちも、父王本人も認識している事であった。
病に倒れた父王は俺を後任の獅子族の長に使命する。そうして、俺に語り掛ける。
「ライオよ。魔王の傘下を離脱し、独自の帝国を築くというお前の言葉。あれはやはり真か?」
こんな状況で嘘も付けない。俺は頷いた。父王は反対するかと思ったが、意外にも笑みを浮かべた。
「そうか。では突き進めよ、ライオ。我々、黄金獅子王の一族の天下を築くのだ。お前なら出来る。見事、やり遂げて見せよ」
そうして、父王は逝った。俺は父王を看取り、その最期の言葉を胸に刻み込む。
我ら黄金獅子王一族の帝国を築いて見せる。その決意を胸に秘めながら。
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