第16話兵力不足



 ケルビム城は戦いの末に獅子の軍勢の前に陥落した。魔王軍の居城の内、ガルマー城とケルビム城を俺たち獅子の一族は手にした事になる。



 それを知った同盟相手の人間、コルニグス王国も早速使者をケルビム城に出し、俺たちの戦勝を祝ってくれた。



 しかし、ここから先が難題だ。

 1450の総軍の内、750の軍勢をケルビム城の奪取に当て、そこに駐屯させているが、ここから先に進むにはこれ以上、戦力を分散させねばならない。



 ガルマー城から魔王軍の領地に至る道はケルビム城だけではなく、エルゼン城というものもあり、そこから攻撃が来る事を考えるとガルマー城の防備もおろそかにできない。



 そして、エルゼン城からはこのケルビム城にも攻撃を仕掛ける事が出来る。これ以上先に進むのなら750の軍勢もある程度は残す必要がある。



 いかに獅子王たちが一騎当千の強さを持っているとはいえ、兵力が少し不足し過ぎるのだ。



 俺は悩んだ。ここから先に進むか否か。



 ラーバルオの言うように捕虜にした亜人たちを帰順させ、自らの戦力にする事はやっている。



 今回は600の兵が我々に忠誠を誓い、帰順してくれた。だが、捕虜だった亜人たち、ゴブリンやコボルト、オークたちは獅子の一族に比べれば単体での戦闘力は大きく劣る上にいつまた魔王軍に寝返るか分かったものではない。そこまでアテには出来ないな、と言うのが、本音の所であった。



 とりあえずはこのケルビム城に腰を据えて、内政か。俺はそう考えているし、ラーバルオもその考えに同意してくれた。



 しかし、配下の獅子たちはさらなる魔王軍の領土への侵攻を、と訴えてくる。



 トントン拍子で敵城を落とせているのだからその勢いのまま敵軍に攻め入りたい、というのは確かに間違ってはいないのだが、兵数にも限界がある。これ以上、兵力を分散させる事は避けたい。



 俺はそう思い、配下たちに「まだ進軍の時ではない」と言葉を掛け、説得する。まずはケルビム城の内政だ。魔王軍の支配下にあったこのケルビム城では当然の如く田畑も何も作られてはいない。屯田を敷き、兵糧を補充出来るようにしなければならない。


 兵糧の補充は重要だ。兵糧がなければ軍を維持出来ない。ガルマー城に敷いた屯田からは兵糧が確保出来るようになり、獅子の軍勢の維持に大きく貢献してくれている。



 このケルビム城でも屯田を敷く事で獅子の軍勢を維持するための兵糧を得る事が必要だった。



 屯田を敷く作業には帰順したゴブリンやコボルト、オークたちも参加させ、我が軍への忠誠度を計る。皆、田畑を切り拓く事は全力でやってくれ、とりあえずは信用してよいか、程度には思えるだけの働きを見せてくれた。



 そうして、ケルビム城の内政も整えながら、やはり次の敵城に攻め入るプランを練る。今は攻める時ではない、と配下に言っておいてなんだが、全く先に攻め込む事をしないというのも俺の考えには反する。



 やはり人間の手を借りる必要があるかもしれない、と俺は思う。人間の、コルニグス王国の軍勢の力を借りれれば兵力不足の問題はすぐに解決する。だが、デメリットもある。



 まず、配下の獅子たちが人間の手を借りて戦う事に大きな不満を示すであろう事。



 そして、人間の手を借りて敵城を落とせばその支配権を人間が主張する事も有り得る、と言う事だ。



 この二つのデメリットを考えればそう簡単に人間の手を借りる事は避けたいのだが、無い袖は振れないと言うヤツで、兵力的に限界に達している事も事実であった。俺はラーバルオを呼び寄せ、相談をする。


「やはり人間の軍勢の力を借りるしかないのだろうか」


 俺の言葉にラーバルオは答える。


「そうですな。兵力的に我が軍は余裕があるとは言い難い所です。コルニグス王国の兵の力を借りられればそこから先に進む事が出来ます。今の兵力ではこのケルビム城までが侵攻の限界と言った所でしょう」

「ううむ。やはり人間たちの力を借りるしかないか……」


 人間の力を借りる。それをラーバルオは肯定した。ラーバルオはいつも的確な助言で俺を助けてくれた。そのラーバルオがこう言い切った事は俺の中で大きな事だった。俺は決断した。


「分かった。人間の、コルニグス王国の力を借りよう。あちらから兵団を派遣してもらい、まずはエルゼン城を落とす。その統治は人間に任せよう」

「そうですな。それがよろしいかと」


 となれば後は配下の獅子たちに人間との共闘を受け入れさせる事だ。俺は配下の獅子たちを集め、人間と共闘するつもりである事を話す。



 当然、反発があったが、兵力的に自軍が厳しい事は配下の獅子も分かっている事だった。最初は反発したが、次第に理解を示してくれた。



 そうすれば、次は人間、コルニグス王国への使者の派遣である。共に軍を起こし、エルゼン城を攻め落とすと言う事を交渉してくれるように頼む。



 人間相手の交渉をもっぱら担当してくれてる黄金獅子王のアーバムを呼び寄せた。アーバムは人の良い笑顔で黄金獅子王らしくないのだが、そのコミュニケーション能力は抜群で交渉事には欠かせない人材であった。


「承知しました、女王様。人間相手に共に軍を出すように交渉してくればよいのですな?」

「うむ。頼むぞ、アーバム。エルゼン城の統治権は人間に譲っても良い。その条件で交渉をしてくれ」

「分かりました。エルゼン城の統治権を人間に譲れるのなら人間たちも否とは言わないでしょう。何、楽な交渉です」


 そう言って、アーバムはケルビム城を出てコルニグス王国の領土に向かう。それを見送り、俺はラーバルオに声を掛けた。


「人間たちはこの交渉を受け入れるだろうか?」

「アーバムの言葉ではありませんがエルゼン城の統治権を譲るのなら受け入れてくれるでしょう。その事で配下の獅子たちは不満を持っているようですが……」

「それは仕方がないな。これより先に進むには人間の力が必要不可欠だ。エルゼン城の統治権くらい譲っておかないと後々に響く」


 それにあまり多くの城を抱えても困るという現実もある。コーラシュマー城、ガルマー城、ケルビム城。この三城だけでも統治するのに難儀している所なのだ。



 ここから統治する城を増やしていくというのは現実的ではない。全ての城で屯田を敷いて、内政をして、などと流石に手に余るのだ。



 それを考えれば城の一つや二つ、人間たちに譲り渡してもいいだろう。流石に全ての城を譲り渡す事は覇業を成し遂げようとする身、了承しかねるが。



 とはいえ、先は長い。気の短い配下の獅子たちには不満であろうが、今、子供の獅子たちも戦力になれば我が軍の力はどんどん増していく。そこまで考えてプランを練ろう。



 俺も若いのだ。年齢的にも余裕がある。急いては事を仕損じる。急いでもいい事はない。どっしり構え、事に当たるのが良策だろう。この人間との共同出兵もその要素の一つだ。



 後々のためにも人間とは今は友好関係を築いておきたい。次の行軍は人間の軍と共同でのエルゼン城の攻略戦だな。



 エルゼン城にも魔王軍は多くいるだろうが、決して攻め落とせない相手ではないはずだ。そう思っていた俺だったが、予想外の報告に泡を食う羽目になった。エルゼン城から魔王軍が軍を出し、ガルマー城に攻め込んだ、というのだ。



 ガルマー城にも700の守兵は残してある。そう簡単にやられる事は有り得ないが、増援を出さねばならない。



 俺は慌てて軍の編成を行い、自らケルビム城の獅子750の兵の内、300の兵を率いて、帰順した亜人たち600の内、200を部隊に組み込み、総計500の兵力でガルマー城への増援に出向くのであった。

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