第17話陽動作戦
ガルマー城に向けてエルゼン城から敵軍侵攻。その情報はコルニグス王国に使者として出したアーバムが戻ってくる前にもたらされた情報だった。
ガルマー城にも700の兵が残っているとはいえ、救援に駆け付けなければならない。
ガルマー城への救援は主力となる黄金獅子王が100の内50、白銀獅子王が250の内100、獅子が400の内、150の総計300に帰順した亜人たち200を組み込み500の兵力で駆け付ける。
ガルマー城に残してきた黄金獅子王100、白銀獅子王250、獅子350の軍勢と合流し、魔王軍を迎え撃たねばならない。
ガルマー城に守将として残してきたのは黄金獅子王バクアール。父の代から俺たちに仕える歴戦の勇将だ。そう簡単に魔王軍に敗れはしないと思うが、援軍として駆け付ける事で士気を高める必要はあるだろう。
報告からガルマー城の守兵は城に籠もらず迎撃に出たと知った。そして、敵・魔王軍が7000の大軍である事も。この程度の数の不利、一騎当千を誇る黄金獅子王ならば覆す事は容易だ。
城に籠もらず迎撃に出たバクアールの判断は間違っていないだろう。そう思いつつも俺は大地を駆ける速度を速め、ガルマー城に急いだ。
この程度の数の不利でやられる獅子の一族ではない。それは分かっているのだが、やはり早く救援に駆け付けなければ、という思いはある。
黄金獅子王と白銀獅子王は一騎当千の力を秘めており、一般の獅子もそこいらの魔物には負けないだけの力を持っている。この程度で敗れはしないと分かってはいるが、急ぐ。
やがてガルマー城近辺に差し掛かると戦いの様子が見えてくる。戦いはガルマー城の守兵たちが優勢に進めているようであった。やはり流石は獅子王の軍勢に勇将バクアール。7000程度の魔王軍の軍勢に遅れは取らないか。
俺はそう思いながらも配下に鬨の声を上げさせ、バクアール軍に救援に来た事を知らせる。
俺が率いる軍勢が救援に駆け付けた事でバクアールの軍は勢い付いた。
俺は戦場の中で前線に出て戦っていたバクアールと合流し、声を掛ける。
「バクアール!」
「これは女王様! 救援に駆け付けてくださり、感謝の極み!」
「そんな事は良い。魔王軍を共に蹴散らすぞ!」
「承知しております!」
バクアールも俺の言葉に頷く。そうして、二人して軍を指揮し、魔王軍の軍勢を次々に蹴散らしていく。獅子の軍勢は圧倒的に寡兵であったが、一騎当千の猛者揃いである。
兵力の不利などまるで感じさせない戦いぶりを披露し、敵兵を蹴散らしていく。我が軍とバクアール軍の黄金獅子王合計150が主力となり敵を蹴散らす。
流石の黄金獅子王である。魔王軍の魔物たちをまるで寄せ付けず、次々に敵を倒していく。俺が率いて来た亜人たち200の兵も奮戦しているようであった。
最も亜人たちは単体の力では魔王軍の配下の部隊とさして変わらない戦力でしかない。次々に兵の数を減らしつつも戦っているようであった。
俺も前線で武を振るい、敵兵を蹴散らす。バクアールもまた前線に出て敵兵を倒していく。
将が前に出て戦っている事で獅子たちの戦意は自然と高まっていく。魔王軍の7000の兵は次々にその数を減らしていき、俺たち獅子の軍勢の士気は高まる。
やはり数の不利など苦にする獅子たちではない。獅子たちは皆、一騎当千の活躍を見せて魔王軍の魔物たちを蹴散らしていく。
魔王軍は次第に士気が下がり、軍勢が崩れ出す。その隙を見逃さず、俺もバクアールも軍勢を率いて突撃を仕掛ける。一騎当千の黄金獅子王の軍勢が突撃攻撃を仕掛けたのだ。
これに魔王軍はひとたまりもなく、さらに数を減らしていく。そうして、魔王軍の部隊は減っていき、魔王軍は兵たちが撤退・離散し始めた。
こうなるともはや、軍規も何もない。魔王軍に撤退命令が下ったのか、それとも魔物たちがかなわないと見て自主的に撤退を始めたのかは分からないが、魔王軍の部隊は引き上げ出し、俺たちはそれを追撃する。
魔王軍の軍勢との数の不利は常態なのでここで少しでもその数の差を埋めるべく魔王軍の部隊を討ち取っておきたい所だった。
そうして、散々に魔王軍の部隊を打ち破り、追撃もし、多くの敵兵の首を上げ、多くの捕虜を得る。この捕虜の亜人たちは自軍に帰順させるようバクアールに命令を出した。敵兵から帰順させた兵も組み込まなければ我が軍には兵力的な余裕はない。
バクアールもそれには頷いてくれた。敵軍を徹底的に叩き、俺は久々にガルマー城の中に入る。総司令官は一応、バクアールだったのだからバクアールを立てるべきかとも思ったがバクアールが自分に譲ってくれたので兵たちを集め、称賛の言葉を発する。
「皆の者! 此度の戦ではよく戦ってくれた! 敵兵の数は多かったが、我々、獅子の敵ではなかったな! これも諸君らの奮戦のおかげだ!」
実際、魔王軍から独立してからと言うものの、兵数では不利を抱えた戦いばかりしているな、と思う。
黄金獅子王にはその兵数の不利を覆すだけの力を持っているという事の証左でもあるのだが、たまには兵力的に有利な戦いもしたいと思う。
だが、獅子たちは俺の言葉に歓声を返す。
数の不利を覆す事が出来たというのは獅子たちにとって誉れであった。俺はそんな獅子たちに満足し、かたわらのバクアールに声を掛ける。
「バクアール。よくやってくれたな。よくこの城を守ってくれた」
「そんな、恐れ多き事……女王様が救援に駆け付けてくれたおかげです」
「いや、俺が来る前からお前の軍勢は魔王軍相手に健闘していた。お前の手柄だ。バクアール」
俺がバクアールを褒め称え、バクアールも口では謙遜しつつも満更でもない顔をする。
実際、この宿将がガルマー城を守ってくれているから前に出る事が出来たという点は大きい、コーラシュマー城を預けているラッフォルといい、父の代から俺たちに仕えてくれている黄金獅子王族がいる事は俺にとって大きな財産だ。
大事にしていかなければならないな、と思う。前線で戦う事だけなら出来る獅子たちは大勢いるが、城を預かり、運営する事が出来る獅子となると大幅に希少になってしまうものだ。
俺は久々のガルマー城の様子を視察する。バクアールはよくやってくれているようだ。敷いた屯田も、効率的に運用されている。
城を預けるに当たって、彼はやはり適任であったな、と再認識する。そうして、ガルマー城を見て回り、俺が満足している時、急報が飛び込んで来た。
魔王軍、ケルビム城に侵攻!
その情報に俺は驚いた。ケルビム城に侵攻だと!? まずい。あそこの兵はガルマー城の救援に俺が半分近くを割いてやって来たから大きく兵数を減らしている。
いや、これは全て一連の作戦だったのだろう、と悟る。まず始めにガルマー城を攻めて、そこにケルビム城から兵を援軍として駆け付けさせ、手薄になったケルビム城を狙って攻撃を仕掛ける。
二重攻撃で兵力を分散させ、寡兵になった方を叩く。兵力に圧倒的余裕がある側でなければ出来ない戦法だが、仕組み自体は子供でも分かる。兵法の基本であった。
俺はバクアールに慌てて別れを告げ、再度のガルマー城の防衛を任せ、自軍を率いてケルビム城に向かう。
ケルビム城にはラーバルオを残してきている。そう簡単にやられはしないが、今のケルビム城は特に兵力が少ない。一騎当千の黄金獅子王族がいるとはいえ、もしかしたら、もしかするかもしれない。
俺は急いで軍勢を率いてケルビム城に向かって駆け出すのであった。
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