第14話ケルビム城侵攻


 ガルマー城の内政は整いつつあった。屯田も機能し出し、コルニグス王国との交易も行う。



 捕虜から味方になってくれた約450の魔物たちも同志として受け入れ、食料を出す。彼らがどれだけ信頼出来るか、どれだけ戦力になるかは未知数であるが、一応、味方になった以上、他の獅子たちと同等に扱う。



 ゴブリンやコボルト、オークたちはやはり肉が好みらしく肉を積極的に食べていた。その点は我々、獅子と変わりはない。



 ケルビム城侵攻に向けて準備を進める。ガルマー城での内政も十分な水準に達した。兵力面での不安も捕虜にした魔物を味方に引き込む事である程度は解消されている。後は軍議で配下の獅子たちが主張する通り、ケルビム城に攻め込み、そこを陥落させるだけだ。



 とはいえ、事態は慎重に進めないといけない。ケルビム城を占領しても、ここガルマー城をおろそかにする事は出来ない。地理的にケルビム城さえ抑えればガルマー城への侵攻の道を断つ事が出来る訳ではないのだ。



 ケルビム城を放置し、ガルマー城に攻め寄せてくる可能性も考えられる。それを避けるため、俺は1450の軍勢の内、黄金獅子王100、白銀獅子王250、普通の獅子400の750の軍勢に捕虜から味方にした亜人たち450でケルビム城に攻め込む事にする。



 残りの約700の兵はガルマー城の防衛に回す。獅子たちは一騎当千とはいえ、兵力面での不安は完全には払拭出来ないが、ケルビム城を占領するに十分なだけの戦力はあると思う。



 俺はその事をラーバルオと話し合い、軍勢の配置を決める。当初の予定通り、白銀獅子王200をジルバが率いて捕虜から帰順した魔物450を監視しつつ、敵と戦ってもらう事にする。



 帰順した魔物たちは獅子に比べれば弱小の魔物で戦力的にはあまりアテにならないが、ないよりはあった方がマシであろう。軍議でその事を告げ、ジルバも同意を示す。彼に帰順した魔物たちの面倒を見てもらう事になる。



 ケルビム城侵攻に向けてガルマー城城内が慌ただしく動き出す。俺も指揮を飛ばしていると、新兵の集団と遭遇した。ライファスもその中にいる。


「女王様、ケルビム城に攻め込むのですね」


 ライファスは天真爛漫な普段の笑顔を真剣そうに染めて、俺にそう言って来る。俺は頷いた。


「ああ、ライファス。お前たちの戦力もアテにしている。見事、期待に応えて、ケルビム城を落城せしめよ」

「はい。女王様。ライファスたち新兵も女王様のために全力で戦います」


 その言葉にライファスだけではなく、後ろにいた新兵の黄金獅子王たちも次々に頷く。



 うむ。新兵とはいえ、士気も高い。この分なら戦力に数えて問題はないであろう。そう思い俺は、ライファスたちと別れ、ラーバルオとケルビム城攻略の策を練る。



 といっても、やはり力押しだ。獅子たちの力は強大で力押し程、有効な戦術はない。ラーバルオもその点では俺と意見を一致させているようだった。


「ですが、女王様。捕虜から帰順した亜人たちは我々獅子ほどの力を持っておりません」

「そうだな。だが、前線で戦ってもらわねば困る。先鋒は亜人たちの軍に任せ、それに次いでその監督をするジルバの白銀獅子王の軍が突撃。全軍で一斉攻撃を仕掛ける」

「そうですな。それが良いかと」


 亜人たちの力は不足もいい所だが、先鋒として突入させれば少しは戦果も上がるだろうし、囮しては使えるだろう。その隙を突いて主力部隊を突入させ、ケルビム城の防衛を破るそれが俺の思い描いたケルビム城攻略のプランだった。



 ケルビム城を守る魔王軍の数は報告によれば8000。一騎当千の獅子の軍勢なら余裕で打ち破れる兵力差だ。亜人たちにも活躍してもらうとして、ケルビム城を掌中に収める。全軍を集め、俺は号令を発する。


「このケルビム城攻略は諸君らの力の見せ所だ。特に新たに我が軍に加わった亜人たちには活躍してもらいたい。勿論、活躍に見合った褒美は出す。全力でケルビム城を落とすべく攻撃を仕掛けるのだ!」


 俺の号令に獅子たちも、帰順した亜人たちも声を上げて応える。うむ。士気は問題なし。これならばケルビム城の防備を打ち破る事も容易いであろう。それを俺は確信する。



 そうして獅子の軍勢はガルマー城を出て、ケルビム城に向けて行軍する。亜人たちを含め、総計1200の軍勢。450の亜人たちは他の750の獅子たちと違い一騎当千の力を持ってはいないが全く戦力にならないと言う事はないだろう。



 ケルビム城に軍勢が到達するとケルビム城の魔王軍は外に出て迎撃して来た。ゴブリン・コボルト・オークの亜人たちにウルフたち獣の軍勢、鳥人・ワイバーンの空中部隊の混成部隊が俺たち獅子の軍勢を迎撃する。



 まずこちらは亜人たち450を突っ込ませた。ジルバ率いる白銀獅子王軍が監督する亜人の軍勢は血気盛んに戦い敵軍と打ち合う。流石に亜人たちは一騎当千とはいかず、亜人たちにも損害が出るが、敵の出鼻をくじく事は出来た。



 ジルバ率いる白銀獅子王軍が突入し、主力の黄金獅子王軍も突撃を開始する。これに敵軍は動揺した。獅子王の軍勢は数の不利を覆すだけのそれぞれが一騎当千の強さを誇っている。獅子王の軍勢は数の不利を感じさせない戦いぶりを見せて、敵軍を蹴散らす。



 先鋒の亜人たちも犠牲を出しつつも敵軍に突撃を開始し、敵兵を倒して行く。その様子を後方で見ながら俺はラーバルオに声を掛けた。


「この分ならケルビム城をも攻め落とす事が出来そうだな」


 俺の言葉にラーバルオは頷く。


「そうですな。亜人たちの部隊も思った以上に奮闘してくれているようです。この勢いならケルビム城の守兵たちを破る事も可能かと」


 獅子王の軍勢の突撃を受け、敵軍は動揺し、次々に獅子王たちに討ち取られて行く。俺もまた前線に出て軍を指揮するべく飛び出す。ラーバルオやライナも続く。



 前線ではライファスたち新兵の獅子王たちも活躍しているようであった。前線で敵兵相手に武を振るう。コボルトやオークなどに豪腕の一撃を繰り出し、その命を断つ。鳥人やワイバーンといった空中部隊も四足で飛び上がり、豪腕と爪で斬り裂き、撃ち落とす。



 女王たる俺が前線の戦いに参加した事でこちらの軍勢の士気は最高潮に達したようだ。俺が次々に敵兵を討ち取り、それに感化された獅子の軍勢もまた敵兵を次々に打ち破っていく。



 数の不利などもはやなかった。敵軍は恐慌状態に陥り、離散・逃亡し出す。こうなれば後は敵城を攻め落とすのみ。そう思った俺だったが、その時、敵城から一匹の強大な魔物が飛び出してきた。



 巨大なワイバーンだ。外見は普通のワイバーンに似ているがサイズが違う。ワイバーン三匹分のサイズを持ったその魔物は普通のワイバーンとは違う。ワイバーン・レックスであった。


「まさか! ワイバーン・レックス!? そんな魔物が!?」


 動揺の声をラーバルオが漏らす。ワイバーン・レックス。黄金獅子王にも匹敵するだけの力を秘めた最上位の魔物であった。



 ケルビム城の守護の切り札として温存されていたのだろう。ワイバーン・レックスはこちらの軍勢目掛けて攻撃を仕掛けて来る。黄金獅子王と白銀獅子王たちが迎撃せんとするが、ワイバーン・レックスの力の前に倒れ伏す。



 まずい。ただでさえ、こちらは兵力が少ないのだ。ここでイタズラに数を減らす訳にはいかない。



 俺は前に出て、ワイバーン・レックス相手に勝負を挑む。


「皆の者! この魔物は俺が相手をする! 皆は下がるのだ!」


 そう言い、ワイバーン・レックスと相まみえる。俺はワイバーン・レックスに一騎打ちを挑むのであった。

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