カラオケ・オブ・ザ・デッド

木沢 真流

序章

「お前、分かってるんだろうな。それが何を意味するかを」


 俺の額に汗が滲む。突き出した人差し指がかすかに震えだした。


「もしお前がそれを押したら……終わるぞ、何もかも。今までお前が積み上げてきたもの全てが!」


 分かってる、そんなこと言われなくたって痛いほど承知している。

 でも仕方ない、やるしかないんだ。世界を救えるのは俺しかいない。


 俺の手には両手のひらでやっと持てる大きさのデバイス。そのタブレット端末風の液晶モニター、1cm手前で俺の指は止まっていた。

 そしてその指をゆっくりとモニターに近づける。


 指の先にあるのは「送信」と書かれた文字。

 そこに指が触れた瞬間、ピッ、という音とともに「送信完了しました!」と楽しげな文字が浮かんだ。


 ——終わった、これで。何もかも——


 俺は周りの仲間を見渡した。みんな良く頑張った、ここまで。

 みんなのためなら俺は……死ねる。


 ——これで、良かったんだよな——


 俺は自分にそう言い聞かせた。

 テレビの画面に送信された内容が反映される。

 たった今、予約登録が完了された歌が1秒だけ表示された。

 それを見て俺は、確かに自分が選んだ曲が予約されたのを確認した。


 終わらせよう、この破滅の歌で——もう何もかも。

 終焉の時がすぐそこまで迫っていた。


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