第12話 いつもの風景

 オフィス。

 いつものように社員が集い、それぞれが仕事を始める。いたって普通の、いつも通りの光景だった。

 その中にぽつん、と綺麗な机がある。

 阿久津 優、という人物の机だ。

 そこに持ち主の姿はない、にもかかわらず、周りの人間はまるで何もなかったかのように淡々と仕事を進める。


 須田里美がふと、その机の前を通りかかった、そして足を止める。

 それからじっとその綺麗な机を見つめていた。

 その背中にふと誰かの声がかかる。


「阿久津さん、立派だったよな。僕らのために……うっ、うっ」


 山田だった。彼はまるで懐かしい過去を思い起こすように回想すると、こみ上げた思いを抑えきれず、嗚咽を漏らした。


「阿久津さん、最初からわたしたちのこと気遣ってくれてた。あんな優しい先輩に恵まれて、わたし……幸せだった。ヤバい、なんか好きになっちゃいそう……」


 須田里美は、阿久津の机にしがみついた。

 そして声を出して、泣き、鼻をすすった。

 山田と須田はしばらくそこから離れられなかった、まるでその思い出を胸に焼き付けたいかのように。


 そんな二人に声をかける者がいた。


「おいお前ら、他人ひとの机ん前で何やってんだ? キモいぞ?」


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