第4話 戦況に動きアリ
コール当番。
大事なクライアントからの連絡を24時間対応をするための当番。
この電話があったら何があっても出なければならない。
それを咎めることはさすがに部長もないだろう、しかしそれを聞いた他の3人の顔は冷ややかだった。
「脱出方法はこれだ。だがもちろん、出るのは俺だけだがな」
早乙女の細い顎に、鋭い目尻。顔にかかった長い前髪は汗で湿っていた。
その奥に潜む笑顔を残り3人は睨みつけた。
「早乙女……お前この状況でも自分さえ良ければ良いってのかよ!」
そう言って俺が殴りかかろうとした瞬間。
「はいはい、テッポウ終わり! 次の歌、行くよ」
八神部長が帰って来た。
そして、またあのボゲーが始まった。
「ふぅたぁりぃでぇぇぇぇ、ドゥアァをしぃめぇてぇ〜〜〜〜ふぅたぁりぃでぇえぇぇ、なぁまぁえけぇしぃてぇぇぇぇぇ〜」
エコーがかかりすぎて、前のフレーズと後のフレーズが不気味に混ざり合う。これもまさによくジャイアンが作っていた毒スープの歌バージョンだ。見事なまでに頭の中をごちゃごちゃにかき混ぜてくる。テロリストの拷問を探している方、ここにいいものありますよ。
しばらく経った、歌の合間のこと。
「部長、少し鉄砲よろしいですか」
「5秒で帰ってこい」
はいっ、そう言うと俺は急いで部屋を出た。
山田と里美ちゃんの顔をちらりとみる。
帰って……来るよね? まるで戦場に旅立つ父さんを見上げる子どものような瞳を、二人は浮かべていた。それはひょっとするとメロスを信じるセリヌンティウスだったのかもしれない。
俺は口元をきりりと締め、力強く頷いてからルーム216を抜けた。
その後、戦況は大きな変化を迎える。
俺は自分の心をこんな形で試されることになるとは思いもよらなかった。
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