第14話 種明かし
金太の大冒険が終わり、まさに部長の頭が核爆発を起こそうとしていたその時だった。
ルーム216のドアが開いたのだ。
……こんな時に入ってくる店員もツいてねえな、鼓膜破れるだけだぞ……
そう思って、入口を見ると、そこには意外な人物が立っていた。
「やあやあ、みなさん。楽しんでるねぇ、結構結構」
それは先ほどのTシャツ短パンのおじさんだった。
……おいおい、おじさん。最悪のタイミングで迷入したな、もうどうなっても知らねえぞ……
そんな風におじさんの冥福を祈っていると、後ろから思いも寄らない声が聞こえてきた。
「か、会長! ご無沙汰しております。いらっしゃったんですか?」
会長? どういうこと?
「あぁ、家族でちょっとね、プライベート。それにしてもほら、そこの君」
俺は、俺? と言った風なそぶりを見せた。
「そう、さっきトイレですれ違った。君のスーツは我が社の特製だからすぐわかったよ。しっかりと礼儀正しく年寄りに譲る姿勢、見上げたもんだよ。八神君の指導がなっているね」
気づけば八神部長は立ち上がり、そり返るほど、ピン、としていた。
「は、はいっ! 彼は優秀な部下でして、いつも仕事も完璧にこなしているであります、はい」
八神部長のように後輩に威張りちらす人物ほど、上の人間に弱い。
さっきまでの勢いがかわいそうに思えるほど無様だ。
「そうかそうか、それは良いことだ。私たちはもう帰るんだが、君たちももう終わりか?」
「え? あ、はい。もう終わるところです、はい」
「うん、じゃあ気をつけて。今度の総会ではよろしく頼むよ」
はいっ! そう言って八神部長は敬礼をした。
部長も色々大変なんだな、と一瞬だけ哀れんであげた。
結局、死のカラオケ、カラオケ・オブ・ザ・デッドは宣言通り、そのまま終了した。
いつもきっちり割り勘の部長も、なぜか今日は「私が払うから」と全額負担した。
そして、別れ際、君はいつもよく頑張っているから、明日は午前休んでいいぞ、と言われたのだった。
さすがにきつかったので、お言葉に甘えたが、油断はできない。
俺は結局少し遅れて10時に出社した、それで十分だった。
「そういえば早乙女さん、もう噂になってますよ。島流し確定だって」
「女子社員の中でも人気ガタ落ちですよ、あいつキモイって」
早乙女は死んだ。
戦場では一瞬の気の迷いが生死を分ける。
俺があの時一緒に帰っていれば、あいつがコール当番ということは知られず、逃げきれたかもしれない。
あの時俺が戻ったからこそ、コール当番が判明し、あいつは脱走がばれて、処刑となった。振り返って見ると、なんだかんだ言って、俺の選択肢は正しかったのかもしれない。
「阿久津さん、今度わたしと一緒にまたカラオケ行きましょうね」
「いや、もうしばらくはカラオケはいいや」
「そんなこと言わずに! いいですよね?」
「あぁ、今度は普通のカラオケでな」
山田が隣でくすくす、と笑った。
「何がおかしい?」
「いや、阿久津さんって鈍いなって。でもそんな阿久津さんだからこそ、みんな付いて行くのかもしれませんね」
俺は今ひとつ山田の言っていることが理解できないでいた。
(了)
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