社会問題に真摯に向き合った珠玉の作品です。
……と書くと、お堅く感じるかもしれませんが、まずはお手に取ってみてください。
たちまち人情味あふれる人物像が浮かび上がってくるのではないかと思います。
この作品を拝読して、人生って何なのだろう? と、しみじみ考えさせられました。
文章が丁寧で、登場人物に対してもとても誠実なので、内容が心にすっと抵抗なく染みこんできます。
まだ連載中で、なにやらミステリーの様相も。
私自身も続きを楽しみにしています。
この梅雨時に、部屋でお読みになる小説のひとつに、こちらの作品も加えていただけたら幸いです。
まずはタイトルそのままに、ゴミ屋敷に住む一人の年配の女性が亡くなったところから物語は始まります。
市役所職員がゴミ回収をしていく模様と平行して、亡くなった彼女がどんな人生を歩んできたかが書かれます。
ゴミ屋敷と聞くと、周辺の方々への迷惑やトラブルを連想する方も多いでしょう。もちろん彼女にも、そんな一面はありました。ですがそこに至るまでには、さまざまな人との繋がりが、あるいはその繋がりを断ち切る出来事がありました。
優しい事ばかりではない、どちらかと言えば、辛いことや人には言えない事の方が多かった人生だったのかもしれません。なら、彼女の一生は救いのないものだったのでしょうか?
その答えは、読んだ人それぞれが考える事なのかもしれません。
主人公はゴミ屋敷を片付けることになった三十路の男。ゴミは層をなし、崖となり、行く手を阻む。しかしその層は、まさしくゴミ屋敷の主の人生そのものだった。そして謎の指輪2つが、猫砂を敷き詰めたタンスから出てきた。さらに主人公を驚かせたのは、あれだけのゴミに埋もれながら、寝室だけはきれいな状態で残されていたことだった。一見、不可解なゴミ屋敷。
しかし、そこはかつて一人の美しく明るく、誰からも好かれる女性の家だった。女性はキャバクラで働いていたが、ある事件を契機に転落していく。そして「神の声」に導かれるように、ゴミを集めだす。そのゴミの中の玩具を近所の子供に与えていた。女性は、野良猫に餌をやり、一人の男の子を救い、そして死を迎えた。
それから数年。ゴミ屋敷はなくなり、土地が売却された。
主人公が体験するゴミ屋敷の状態と、生前のゴミ屋敷主人の人生が交差するように紡がれる人間ドラマが、ここにある。
果たして、彼女の身に降りかかった事件とは?
2つの指輪の意味とは?
彼女とその屋敷の織り成す人間模様に、心打たれる。
是非、ご一読ください。
町でも有名なゴミ屋敷に住む一人の老婆が亡くなります。
彼女は近隣の人から厄介者として扱われていました。
そしてゴミ屋敷は行政とボランティアによって片付けられていくのですが、そこからゆっくりと彼女の人生が紐解かれていきます。
そこから描かれていくのは一人の女性の濃密なドラマであり、ゴミ屋敷を築いたミステリーであり、感情を静かに揺さぶる文学でもあります。
とにかく面白いの一言に尽きます。そしてすごく胸に残る物語でした。
どんなに抗おうとも何度も襲い掛かる過酷な運命、そこで彼女が下す決断は良いとか悪い、正しいとか間違っている、なんてことを簡単に吹き飛ばします。
彼女はゴミ屋敷の主人、立派な人間とは言えないでしょう。でもどうにも人間らしくて、正直で、憎めない人でもあるのです。だからこのストーリーから目を離せない。
あらすじはこんな感じなのですが、まずは本文をぜひ読んでください。
文章は読みやすく、人物の描写はこまやか、そして映画を見ているように過去と現在のシーンが溶け合うように行き来します。
そこから鮮やかに立ちのぼる一人の女性の生涯、そのありさまを描ききった筆力もまた素晴らしいと思いました。