第11話 登場。レースプリンセス、可憐様♡
ピット上では、走り終えたあおいが、開放感から思わずフルフェイスのヘルメットを外してしまう。そして、ほんの少し蒸れてしまった長い髪に風を当てるようにして首を振る。その仕草は、まるで『レースプリンセス、可憐様♡』の主役、姫野可憐のようだった。しかも、その顔は可憐様そのもの。CにもSにもHにも映画を観ていないものはいない。だから、目の前で繰り広げられる映画のワンシーンに思わず見入ってしまう。あおいが、そのことに気付いたときには、男達の目は♡になったあとだった。あおいは、迂闊な自身の行動を誤魔化すように、可憐様のモノマネをする。
「今日も、勝たせて頂きます!」
映画での自然な演技とは違い、誇張されたモノマネの仕草は、目の前にいた男達をかえって納得させる。今、目の前にいるのはホンモノの可憐様だ、と。だから、男達は大興奮状態になる。
「かっ、可憐様だ!」
「こんな片田舎のサーキットに!」
「一輪の花が咲き誇っておる!」
「いや、満開でございます!」
「それにしても、相変わらず素晴らしい走りです!」
「マシーンが大きく見える!」
「それはきっと、お身体が小さいからでは!」
「お胸の辺りも全くお変わりない!」
「いや、寧ろマイナス成長なさっておるのでは!」
予想通りの男達の反応に、あおいは嫌気がさしたのをおくびにも出さず笑顔で応える。
「この花は、貴方達への手向けよ! (あーあぁ、めんどっちぃ……。)」
ピット脇の路地に自生しているタンポポをとっさにもぎ取り、一同のいる方に見せるようにして差し出す。映画で話題となったシーンの再現だ。
各チームの男達は、この感動を無線で第2ドライバーに伝える。
「どっ、どういうことだ!」
「可憐様が御降臨なさったって!」
「この眼で確かめなきゃ!」
第2ドライバー達の走りは、これまで以上に厳しくなる。早く戻って、可憐様に会いたいという一心だった。だから、Kチームのリードは徐々に縮まっていく。K、C、H、Sの順は変わらないものの、3台のマシーンが一進一退の攻防を見せながら、どんどんKチームに迫っていった。
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