第4話 超特別講習

 コースがあき、いよいよ場長による超特別講習がはじまる。用意されたのは2人乗りのカート。スピードを体感するのと走行ラインを把握するのが目的という説明があった。だが本当は場長が巫女達とドライブしたいがための講習に過ぎない。太一を除けば、巫女達は皆、死んだ魚の目をしてこの講習に参加した。フルフェイスのヘルメットを被っているから、気付かれはしないのだが。場長も場長で、太一を載せているときは、死んだような目をしていたから、お互い様だ。


「すっごいなぁ!」

「コウフンシタワ」

「スゴイデスネ」

「コワイデスネ」

「ハヤイワネ」

「マ、コワイッショ」

「ハヤカッタワ」

「横がマスターだったら良かったのに」


 感想も太一としいか以外は棒読みだ。太一の場合は本当に楽しんでいたが、しいかの場合は普段とのギャップがあまりないだけ。


 それぞれのカートに乗り換える。場長のカートを先頭に、2人乗りに乗った順に列をなす。あゆみは、直ぐ前を行くまりえとの距離感を掴むのに苦労していた。フルフェイスのヘルメットを被るために、コンタクトにしたのが仇となったようだ。


(コンタクトレンズだと、調子が狂うなぁ)


 ちょうど真ん中を走行していたアイリスは、快適にステアリングを切る。カートを一回り大きくしてもらったことが奏功したようだ。代わりに被害を受けたのが、そのうしろを走行していたあおいだった。


(何なのよ。すごい排気ガスじゃないの!)


 最終コーナーの手前で、場長のカートが静かに停止する。ここから先は1人ずつ、急ブレーキとスピンの実技演習となる。安全管理上、最も重要な講習といえる。


「最高速に達したら、アクセルを離し、直ぐにブレーキを踏んでください」


 大まかな説明のあとは、場長が手本を見せる。カートは徐々に速度を上げる。曲がり切る直前にはアクセル全開となり、ストレートに入ってしばらくすると最高速に達した。程なく、キーッという音とともにカートは減速。くるくると回りはじめた。


「あっ、スピンだ!」

「すっごーい! くるまがくるくるまわってる!」

「あんなに簡単に!」

「はじめは後輪が横に滑る感じ……。」

「……途中からは前輪がロックしていたわ」

「ま、横転することはないっしょ!」

「何だか怖いですねぇーっ!」

「だから、危ないって言ったのよ!」


 そのあとは、1人ずつ実演してみる。この講習はスピンの恐怖を事前に味わうことで、万が一のときに慌てないで済むためのもの。しっかり理解して臨んだつもりでも、恐怖のあまり絶叫が絶えない。


「あぁあー! すごいGだぁ」

「わあぁい! 目っがまっわるぅ!」

「あれれー!」

「いやぁー! 千切れるぅー」

「ちょ、ちょっと! 回り過ぎだっつーの」

「ま、こんなもんっしょ!」

「うっ、ふふ。スピンも大サービスしてもらっちゃった!」

「だから、乗りたくないって言ったのにぃ」


 スリルを体感。このあとは、いよいよフリー走行となる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る