第13話 汗のせいであって、焦ったせいではないけれども

 代わった太一が大失敗をする。アイリスのおっぱいは元気になったが、太一には油断しかなかった。鼻についたおっぱい汗の匂いと頭の感触が忘れられず、注意力が散漫になっていたのだ。1周目の第7コーナーという、何も起こりそうもないところでスピンしてしまった。後続車も巻き込まれて大きく順位が変動。S、C、H、Kの順になった。


(太一くん、負けるわけにはいかないから!)

(たかたんさん……。)

(俺達だって、マシーンを失うわけにはいかんのだ!)

(場長……。)

(俺の走りで、決着をつける!)

(どっ、どなた様?)


 太一は慌てて追いかけるが、追いつくのが精一杯。結局ビリッケツでピットに戻る。


「みんな、ゴメン! スピンしちゃった……。」

「ま、頭を丸めて土下座っしょ!」

「そんな。坊主だけはイヤ!」


 まことが揶揄うのを真に受ける太一。光龍大社の宮司である太一にとって、それほど坊主がイヤなのだ。それを庇うようにアイリスが言う。


「まこと、私が勝てば問題ないでしょう!」

「ま、それが本筋ってことっしょ!」

「必ず、ポールトゥウィンしてみせるわ!」


 誤用はまだ止まらない。


 アイリスのマシーンも止まらない。元気なおっぱいを提げ、軽さを活かして好加速、トップスピードも1番速い。だから、テクニカルエリアを前にして、既に他車に追いついている。だが、ここからが正念場である。アイリスの御すマシーンの挙動は、あおい達とは少し違った。後輪が大きく外へ膨らむオーバーステア気味なのだ。いつスピンしてもおかしくない。


「アイリスったら速すぎるのよ!」

「いや、オーバーステアの原因は、スピードの出し過ぎだけではない!」

「遠心力が大きくなっている……。」

「あっ、まさか!」

「何よ、どういうことよ?」

「ま、しいかやあおいには分からないことっしょ!」

「またそれ?」


 そう、それである。アイリスがオーバーステア気味な原因は、おっぱいだ。そのことを誰よりも早く気付いたのは、アイリス自身だった。アイリスは、2周目から修正する。元気なおっぱいを外側の腕でぐいっと押さえ、オーバーステアを寧ろ上手に利用した。ホームストレートから続くスピードエリアでは一転、おっぱいをゆったりさせてインベタで列をなして進む他車を外側からまとめて抜きにかかった。


「あ、あんなライン……。」

「危険だ! その先には第3コーナーがあるというのに……。」

「悪いけど、ラインを譲る気は無いよ」


 アイリスのマシーンがオーバーステアだからといって、ヘアピンの内側から急カーブを曲がり切ることは至難の技だ。スピンの可能性が高い。初心者を相手にムキになっているSチームのドライバーは、全く譲る気は無い。アイリスもスピードを抑えて車列の末におさまろうという気が全くない。だから、SとKの2つのマシーンは、サイドバイサイド、並走してヘアピンを曲がる。そしてそのあとしばらくはこの状態が続く。SとK、C、Hの順で、周回を重ね、ファイナルラップを迎える。



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