第6話 第4のチーム

「お互いに賞品を提供し合うというのはどうだろう」

「おおっ。さすが盛り上げ上手なたかたんさんだ。面白そう!」


 たかたんのペースではなしが進み、レースを催すことになった。さらにたかたんが賞品のことを提案すると、卑裏悪のメンバーは乗り気だった。


「じゃあ、俺達はコレ!」


 たかたんが提供したのは『東京浴衣博』の招待状。これさえあれば展示されたお好きな浴衣をお持ち帰りできる! というレアチケットだ。


「さすがはたかたんさん! 盛り上げ上手っす」

「おぉー! すごいすごい!」


 モテない男子でも女子を誘えば、うけること間違いなし。卑裏悪のメンバーにも、もしかしたら春が来るかもしれない。何故かまりえも盛り上がる。価値が分かっているわけではなさそうだが。


「だったら、俺達はコレでどうっすかね!」


 そう言って卑裏悪のメンバーの1人が提供したのは、都内高級ホテルの宿泊券付きナイトプール貸切券。


「やるじゃないか、卑裏悪!」

「なんか、わくわくしてきたー!」


 たかたん達も興奮気味に卑裏悪の提供賞品を愛でる。まりえはその雰囲気を楽しんで、一緒になって喜んでいる。だが、太一は困り顔だった。


(そんな立派なのに見合うモノ、俺達にはないよなぁ……。)


 優姫がいるからこそ、そこそこの値段でかなりのサービスを提供されているが、『賞品』として提供するとなると、何もない太一だった。


「いや、太一くんにはすごいものがあるじゃないか」

「そうだ! 勿体振らずに提供しろ!」


 たかたん達と卑裏悪のメンバーが要求してきたのは、『お好きな勝利の女神に、ほっぺにチュウされる権利』だった。この2組、なんやかんやと息が合う。当然、太一は難色を示す。


「よぉーし! 受けて立とう」


 そう言ったのは、まりえだった。サーキットだけに乗りが良い。チュウをする本人が賛成なら、太一にこれ以上反対する理由はない。だが、あおいやしいかは当然猛反発。結局、優姫が交渉に入り『グローブつけたままあくまで義理で2回くらい頭なでなでしてもらえる権利』にまで値切った。


 はじめ、人数のバランスから、太一達は2チームに別れる提案がなされた。だが、すぐに暗礁に乗り上げる。誰も太一と同じチームになりたがらないのだ。


「だって、太一くんが勝ったら……。」

「……『何でもしてあげる権利』……。」

「……がもらえるんでしょう……。」

「……ま、表向きは『グローブつけたままあくまで義理で……。」

「……2回くらい頭なでなでしてもらえる権利』だけど……。」

「……実質は『何でもしてあげちゃえる権利』……!」

「……ってことになりますわよねぇ!」


 都合の良い拡大解釈を、声を揃えて言う7人。このままではチーム分けがままならない。レースの開催も危うい。誰もがそう思ったときだった。


「ちょっと待ちな! 俺達で良けりゃ、力を貸すゼ!」


 そう申し出てきた人がいた。白紙撤回かと思われたレース企画。救ったのは、場長だった。


「俺達も豪華商品を用意しよう。コレだ!」


 そう言いながら場長が指差した先にあるのは4台のモンスターマシーン。アイリスが乗っているモノよりも、もう一回り大きい。エンジンはセラミックス製、シャーシもボディーもフルカーボンの軽量設計。最高時速90キロメートル以上。場長は太一達を1つのチームにまとめ、自分達もレースに参加する代わりにそれを賞品として提供すると言ってきたのだ。しかも、この4台はレース用の車両として使用される。


「まぁ、さすがは場長さんです!」

「このマシーンは、喉から手が出るほど欲しい逸品だ!」

「俺達のマシーンがちゃちに感じるゼ!」


 3チーム共異論はなく、場長達の参加をむしろ歓迎した。こうして、レース開催の準備が整った。賞品は全部で4つ、どれも豪華と言って良い。

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