第8話 オープニングラップ
ポールポジションの先に設置された信号機は、赤が2つと青が1つ。はじめの赤が点灯したとき、ピットにいたたかたんは、あることに気付いた。Cチームのマシーンの挙動についてである。
(あのラインは、オーバーステア気味だったのか……。)
オーバーステアとは、コーナーリングの際に車両が内側へ巻き込まれる挙動を示すことをいう。後輪の摩擦力が低下し、遠心力に負けた状態のときに起こり易い。
(スピードの出し過ぎ。いや……。)
原因は、大きく2つある。1つはスピードの出し過ぎによる遠心力の上昇によって、相対的に後輪の摩擦力が低下すること。そして、もう1つは車両の重心の位置が前過ぎて後輪に充分なグリップが効かなくなり、文字通り後輪の摩擦力が低下すること。一般的には前者が主な原因となるが、たかたんはそうは思えなかった。
各マシーンがブォーンとうなりをあげる。車両そのものは動いていないが、エンジンはいつスタートしても良いほどの回転数に達している。ランプの位置が1つ上がり、辺りを強く赤く照らす。
(……俺達がアンダーステアだったんだ!)
たかたんは結論に辿り着き、それを慌てて無線でドライバーに伝えようとした。
ーーベタ踏みで直進! スタートでCを抜くんだ!ーー
ーーなっ!ーー
刹那、信号が青に変わる。4つのマシーンが同時に動き出す。たかたんの指示は、あと少しのところで間に合わなかった。Sチームのドライバーがたかたんの指示の意味を理解したときには、Sチームのマシーンは左に進路を取り、Cチームの直ぐうしろに付けたあとだった。走行ラインに乗ろうという、ドライバーの本能的な操縦だ。そして、ドライバーが慌てて右にハンドルを切り直し、Cチームのマシーンを追い抜こうとしたときには、その遥か前方に、1台のマシーンがあった。セカンドロー、最後方からスタートしたあおいだ。真っ直ぐに突き抜けて、そのまま1コーナーを先頭でまわる。共に高速コーナーだ。
「くっ。初めから真っ直ぐ走っていれば……。」
波乱のスタートとなった。だが、この結果を半分予想していたチームが1つだけあった。Cチームだ。スタート時の加速性能を捨てて、コーナーでの安定を得る設定をしていたのだ。だから、Cチームのマシーンの加速性能が悪いことに気付いたどこかのチームが前へ出ることは織り込み済みだった。それでも、KとSという2つのチームに先を越されたことは、誤算だったと言わざるを得ない。
K、S、C、Hの順でスタート直後の高速エリアを駆け抜ける。
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