書き手読み手なら、様々な思いに胸が埋まる作品

オレンジ11様の描く人間ドラマがいかに人を惹きつけるかは、もう他の多数のレビュワーさんがお書きになっているところです。

いつ読んでも無理のない文体と文の構成は、御本人がエッセイなどでお書きの通り、並ならぬ配慮と推敲があってこそ、と。取材に基づく揺るぎないリアリティも、その確固たるものに一書き手の立場では自分の書き方が恥ずかしくなるほどです。

個人的には、書き手として、読み手として、本や物を書くことに向き合った今までの記憶がぶわっと湧き上がりました。

出てくる作品たち。懐かしい作品、手にとって装丁にため息をついた本。汚したくなくてそっとしまった記憶。
実際の本も盛り込まれ、本当に本屋さんにいるみたい。

そして公私両面で、文章を書くとき第三者の間で生じる軋轢。妥協と、相乗効果の両側面。多くの方が経験おありでしょう。仕事や、旧くは作文などで。
だからこそ主人公章くんの辞めた会社に顔をしかめ、ミュゲ書房の章くんの元で書きたい、と思わせるのです。

そして、とても個人的な感想です。
暖かい日差しを感じながらゆっくり本を読む時間を、思い出させてくれるような雰囲気を作品全体から感じるのです。珈琲の香りがして、木の机の上に大好きな本を広げて読むのです。
読了後、感じました。

これは本に対する自分の記憶や気持ちを改めて気づかせてくれるお話。

芸術は普段の現実で隠れているものに目を向けてくれるものと言います。ゴッホの絵にある靴のように。

同じように、普段気に留めていなかった思いが浮かび上がる。このミュゲ書房で。

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