「ムサシノ」を描け。
新しい支配者が、旧国の宮廷画家に命じたのは、見たことも聞いたこともない町。
描けなければ、敗将となった友人らの処遇も危うい。プレッシャーのかかる中で宮廷画家は必死に「ムサシノ」を描こうとするが……。
登場人物は、わずかに3人。
新しい支配者から「屏風の虎を追い出せ」じみた無理難題に、宮廷画家が苦悩の末に出す答えは、実に人間味があって体温を感じた。
結末となる、新しい支配者のイジワルとも悪戯とも受け取れるオチは、もう一つ踏みこんで、宮廷画家と読者をあっと言わせる「ムサシノ」を欲張りたいところ。
ともあれ、ルビンの壺。支配者が見たかったのは、もはや望郷の念ではなかった、「ムサシノ」。良かったと思います。受賞おめでとうございました。
二人の男性のやり取りから始まるこの物語。戦記物を彷彿とさせる重厚な語り口ですが、主人公が宮廷画家という職業であるから、血なまぐさい話にはならないと思いきや……?
どうやらこの国の新王となった男は、依頼する絵の出来如何で将軍たちの処分を決めるという。突然その双肩に重荷を背負う事になったアルフレッドの運命やいかに!?
この文字数で魅力的なキャラクター像を描き出し、緊張感ある展開、それでいて何故だか読者もムサシノってどんな所だっけ? と興味が惹かれるという。
新王の説明が言い得て妙というか、それ以外言いようがないしで。
武蔵野という土地のイメージを表現し尽くしながらも、ライトノベルらしい異世界転生の要素も織り交ぜられているという、短編とは思えない濃厚な後味の作品。
人生への示唆にも富んでいて、一読の価値ありです。
新王がムサシノ出身……!?
トウキョウ、サイタマと何やら馴染みのある地名に言及はされるものの、この物語では、その地のことはほとんど具体的には語られません。ただ、世界統一を果たしたばかりだという新王が、自らの故郷として、宮廷画家に語るのみです。
彼は、画家に曖昧な言葉のみで己が故郷を語り、それだけで、絵を描け、さもなくば敗残の将達の処分も危ういとそう脅しとも取れる要求を突きつけます。
難題を突きつけられた画家のアルフレッドは、それでもその課題に真摯に向き合いますが、用意に描けるわけもなく。やがて、期日の十日後、疲弊しきった彼の前に現れた王が語ったその真意とは——。
4000字未満という字数とは思えないほど様々な心の動きが繊細に描かれ、かつ、転生者というギミックをとても巧みに使って「武蔵野」が見事に昇華されていました。
まさに武蔵野ライトノベル……!
おすすめです!