おまけ いとでんわ



『もしもしー』


 それは篭った遠慮がちな声。


「…………っ」


 なにか口にしようとするが、様々な感情が入り混じって、言葉にならない。返事を待っている声の主は、吐息をこぼしながら、もう一度同じ言葉をそっと囁く。


『もしもーし。龍神、聞こえてる?』


「…………ええ」


『やった! 龍神の声が近くでする!』


 無邪気に喜ぶトモリの声に、龍神は頭がぐらぐらしていた。すでにベッドに体を横たえいるのだが、この幸せすぎる状況に昇天しそうだった。


(姫の声が近くで……、しかも、今日はたくさん話ができる──控えめに言って最高。尊い……ああ、幸福すぎると語彙力が失うのは、本当だったのですね……)


『龍神、今日の夕飯の……の希望がありますか?』


「…………リクエスト、ですね」


『うん、それ……!』


 篭った声は遠慮がちで、いじらしいほど一生懸命だ。


(いつも帰りは遅いし、入院していた時のように本を読んだりする機会も減った。……姫が離れていっても、おかしくないのに……)


 ちょっとでも一緒に居ようとトモリは龍神の背中を追いかける。そしてどこか遠慮がちに声をかけてくるのだ。


『食べたいの……頑張って、つくる』


 龍神は回らない頭で、必死に食べたいものを考えた。


「そうですね……。正直、式神の作る薬膳料理以外なら──ああ、ですが、お粥が定番ですか……。姫の作る料理なら何でも美味しいですし、食べさせてもらえたなら……いえ、しかし──そんな贅沢な……」


『うん! わかった。お粥作るね』


「それは……たのしみ──!?」


 龍神は心内で呟いたつもりで、声に出していることに気付く。

 一瞬で血の気が引き──


「あ──姫、これは……!?」


『うん、大丈夫。ちゃんと「はい、あーん」もするよ』


 トモリは気合満々で告げた。

 龍神は引き留める事も、弁明も出来ずに絶句する。


(幸せすぎて死ぬんじゃ──? あ、もしかして夢なのでは?)


 その後、龍神はさらに熱が上がったのだった。


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