第7話 りょうり と あさま



 何度目かのコールで、目当ての人物が電話に出てくれた。


『なにかあったのか?』


 ぶっきらぼうな声に、トモリはびくびくしながら要件を口にする。


「師匠。お粥のつくりかたを、教えてください」


『粥?』


 浅間はしばし沈黙ののち、なぜ珍妙なリクエストが飛んできたのか察した。


『しかし、お粥なら俺でなくとも式神がいるだろうが』


「式神が作ると、どう頑張っても薬膳料理になっちゃうんです……。あと体にいいんですけど、すっごく苦い……」


 良薬は口に苦し、とはよく言ったものだが食事にまで苦い、まずい、独特なものは結構堪えるものだ。


「龍神が、風邪で弱っているから、美味しいものを、作りたいんです」


 トモリの意気込みに、浅間は僅かに考えこみ──


『なるほど、気持ちはわかったが、今俺は仕事中だ』


 耳をすませば爆音やら怒号が飛び交っている。交戦中なのだろう。それに気づいたトモリは背筋から滝のような汗が流れ落ちる。

「す、すみません……!」と、トモリは電話越しの相手だというのに、何度も頭を下げた。


『聞いていてわかる通り、現場に直行は不可能だ』


「はいっ……」


『だから、口頭で作り方を説明する。それでやってみろ』


「師匠っ! ありがとうございます」


 落ち込んでいたトモリの顔が、一気に明るくなる。


『では、材料の確認だ』


「はい!」


(術式や身体能力はまったく駄目だが、料理の腕に関しては光るものがある。無理に龍神と同じ道を歩まなくてもいいとは思うが……)


「師匠?」


『なんでもない。さっさと始めるぞ』




 ***



 一方そのころ。

 龍神は熱がさらに上がっており──


「うーーーん。姫が花畑の向こう側で、微笑んでる……」


 ツッコミが不在な状況だった。


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