第2話 りゅうじん と しきがみ


 翌日──

 といっても夜明け前だっただろうか。いつの間にか眠ってしまったトモリとフォーア。そしてアヤカシたち。


「ひ、姫が……。部屋にいないと思ったら……」


 まさにゾンビならぬ《物怪もっけ》の集団と戦ってきた白銀の髪の青年は、愛しい少女が少年フォーアと一緒の部屋で寝ていた事にショックを受けていた。

 彼の名は《龍神りゅうじん》。万物に近い存在の化身である。

 あるのだが──


「《物怪討伐》の疲労よりも、こちらの方が……辛いとは」


 《物怪》とは人の心の闇が《アヤカシ》を引き寄せ──禍々しい形を与えて、現世へと顕現する化物のことを指す。


(あー、恐らく昨日の映画のせいだな……。急な召集で家を空けたのが原因か……)


 式神はトモリの傍を囲む木霊や狐たちを見やって、僅かに目を伏せた。少なからず龍神の恋心を知っているが故、思う所があるようだった。


「ふむ。……なら来週のホラー映画はもっと怖いのを用意するので、その日は出動要請を某が変わってやろう。そうすれば、お前を頼ってくるであろう」


 その言葉に龍神は酸漿色の双眸で睨みつけた。


「なにを言うかと思えば。姫に怖い思いをさせてまで好感度を得ようなど、言語道断。さらにそのような態度は万死に値します」


 売り言葉に買い言葉。

 轟々と吹き荒れる闘気に、式神は刀の鯉口こいくちを切る。


「ほお、ならば──ここで決着をつけるか?」


「その暑苦しい鎧を切り刻んであげましょう」


「ハッ、口だけは達者なようだな」


 ジリジリとにらみ合う龍神と式神。

 互いに間合いギリギリで踏み込もうとした刹那──


「んん……」と身じろぎする少女の唸る声が部屋に響く。眉を寄せて「うるさい」と言った顔で寝返りを打った。そのせいで布団がずれる。


「それでは腹が冷えるではないか。まったく」と式神は闘気を収めると、少女の布団をかけなおす。


 がら空きの背中を龍神が攻撃することはなかった。というより──


(眉を寄せて、怒っている姫も愛らしい。尊い。……ああ、今日もすやすやと眠っている。夏は《物怪》が出やすいので時間が取れないですが……夏祭りは一緒に──)


 龍神。トモリに恋心を抱く《アヤカシ》であり《神》だ。

 彼の恋の行方は──いかに?


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