おまけ かっぱ と フォーア と ふくじゅ

 時は遡り二〇〇三年の──

 栃木県那須、殺生石付近に苦戸川にがとがわという川が流れている。


 夏の暑い日だったので、トモリとフォーアと式神、そして《アヤカシ》たちは川に来て涼んでいた。ヤマメなど川魚が多く生息している。


 式神は釣りをしつつ、トモリとフォーアの保護者として同行している。と言ってもフォーアは全身義体化してから、寝るとき以外は車椅子に座ったまま、聴覚以外は基本的にシャットアウトしていた。


(失敗した──車椅子だから行動は出来ないと断るつもりだったのに……)


 山道で車椅子の移動は困難を極める。しかしトモリは諦めるどころか式神の腕力を見込んで、フォーアを車椅子に乗ったまま川辺に連れてきたのだ。岩山の上に止めると、式神は隣で釣りを始めてしまう。


 フォーアの耳に木々の騒めく音や小鳥のさえずり、川のせせらぎが聞こえてくる。そしてトモリとアヤカシのはしゃぐ声もだ。


(無茶苦茶だ……)


 フォーアは溜息を落とす。


「小僧。そろそろ観念した方がいいぞ」


「……なにを?」


「分からんか?」と式神は楽し気に語った。


「わからんかにょ」


「にょ?」とフォーアは珍妙な語尾に眉を顰めそうになった。


「ん、ああ。河童か」


「そうにょ。この辺は縄張りにょ」


 頭の上にお皿、唇は鳥の嘴くちばし、目は墨のように黒くて真ん丸で愛嬌がある。全身が花萌葱はなもえぎ色で、福寿と似て雪だるまに似た形をしていた。

 独特の語尾とその愛らしい姿では、全く怖くない。


「……もし、主に相撲を挑む気なら、某が代理として臨むが如何いかがか」


 式神の口元は笑っているが、その闘気は本気マジだった。わかりやすい脅しに身の丈三十センチほどの愛嬌のある河童は──


「トモリー、友達。勝負しないにょ!」と若干涙目になりながら答えた。


「河童から相撲勝負をとりあげていいのか……」とフォーアは思ったが、押し黙った。


「ござ、ござ、ござる♪」


 さらには「ござる」しか言わない木霊──福寿ふくじゅがフォーアの傍にやってきた。


「いや、だからなんて言っているか、全然わからない」


「ごーーーーざーーーーーーる」


「伸ばしても一緒だ」


「ござる……」と福寿はしょんぼりするが、再び「ござる♪」と飛び跳ねてフォーアの傍に居た。


(本当にここの住人は、自分を独りにしてはくれないんだな)




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