第3話 あさま と おにごっこ ぜんぺん
普通の鬼ごっこの場合。
「鬼さんこっちだ~」
「まてー」と言って、鬼役はおいかける。タッチをされたら、鬼役は交換して鬼ごっこ再開。
鬼が色を指定して行う
ちなみにカップルでの鬼ごっこの場合。
澄み切った青空。温かな日差し。
カップルが浜辺をゆるやかに駆ける。
「あはは、待てよ」
「ふふふ、捕まえてごらんなさい」という、恋人鬼ごっこというものもある。
だが、今回とある山で起こった鬼ごっこは違った。
二〇〇三年 秋──
トモリの家の後ろは、傾斜のきつい森へと繋がっている。
紅葉狩りには、まだ少し早い頃だろうか。
舗装されていない獣道を駆けるのは、十一、二歳の少女。名はトモリという。
肩で息をしながら、何かから逃げている。
背後から追いかけてくるのは──
(にゃあああああ……!)
黒く大きな《アヤカシ》──ではなく、人間だ。もっとも、深緑色の斜めに切りそろえられた前髪、後ろに束ねた長い髪が蛇のように動く。
「こら、走るペース配分を考えろ。そんなんでは、すぐに息が切れるだろうが。遮蔽物をよく見て走れ、周囲の情報を頭に入れることも忘れるな」
鬼役の男に少女は頭を小突かれて、ゆっくりと立ち止まった。
「はい! あの……師匠、ごめんなさい」
トモリの師匠こと
「本能的に逃げないと、噛まれてゾンビになるって考えちゃって……」
「なぜゾンビだ?」と浅間は小首を傾げたが──式神の影響だと思い至り、ぞんざいな溜息を吐いた。
「俺はゾンビじゃないし、吸血鬼でもない。とある研究施設による実験が失敗したため、ウイルスが周囲にまき散らされたという事実はないから安心しろ」
「はい……」としょんぼりするトモリに、浅間は頭をかいた。思った以上に成長していないからだろう。少女は天才ではないし、戦いにおおよそ向いている性格ではなかった。
「まずは基礎体力をつけてからと、思っていたが……。仕方ない、チーム制鬼ごっこに変更しよう」
「あの、でも……! 私、もっと強くなりたいので、頑張って走……ります」
浅間はトモリと同じ目線にまで腰を下ろすと、ポンと少女の頭を撫でた。
「いや、無理な修行はその分、体に負荷をかけるからな。それよりは、貴様なりの戦い方を伸ばした方がいい」
少女はコクコクと頷いた。
「では明日までにメンバーを集めるように。最低三人だからな」
「はい!」
***
その夜の 警視庁、《失踪特務対策室》にて──
「──という修行プランを変更することにした。さっさと今の仕事を終えて帰還しろ」
浅間は電話越しにある人物に告げた。聞こえてくるのは、爆音と獣に似た絶叫──そして──
「わかっています。是が非でも姫と恋人鬼ごっこしたいので、速攻で片づけましょう」
龍神は声高らかに宣言すると、通話を切った。
(チームメンバーの場合は、鬼にならんのだが……)
浅間は煙草に火を付けると、「ふう」と紫煙を吐いた。
(まあ、いいか)
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