なぜ人は何かを書くと思う。

 文字は残るから。
 もしかしたら永遠に。永遠に近いところまで。

 人は他者から観測される情報によって成り立っている。死者は碑文や伝記、家系図や遺書といった情報によって存在を認識される。生者であれば戸籍情報や発言、論文や映像記録などがそれに当たるだろう。どれも現代社会では電子化が進み物理媒体の価値は徐々に失われている。
 ならばその情報を喪失したらどうなるか。
 観測された記録が失われていくのなら、その人の存在証明は不可能である。
 そんな世界の延長線で、主人公の身に何が起こるのか...それはぜひとも自分の目で見て確かめてほしい。sfとして素晴らしい思考実験作品だと思う。
 あらゆるものが情報化していっている現代人にこそ読んでほしい、そんな掌編だ。

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