震えるほどの恐怖と衝動――自分が消えたその先へ、遺せ爪痕。

カクヨムにいる全クリエイターに読んでほしい、というのが率直な読後感です。

自分が、あるいは誰かが死んでしまったとして。命はそこで終わってしまっても、その「存在」が、すぐに世界から完全に消えてしまうことは少ないと思います。

人は認識し、認識されながら生きています。出会ってきた人の数だけ、程度に差はあれ、彼らの心に自分の断片があります。自分の心にある大切な人の断片を、抱いて生きていくことができます。
人は情報を記録し、記録されながら生きています。これだけ情報化が進んだ現代なら、自分の存在の痕跡が世界中に散らばると言ってもいいと思います。
ましてやカクヨムにいらっしゃる創作者の皆さんは、それをより意識的に行っているのではないでしょうか。

いつ命が終わるか分からないような我々ですが、だからこそ、このような営みは美しく、希望を見出せるような在り方だと思うのです。
同時に、喪失と向き合わなければならない、切ない在り方でもあるのですが。

では、それらが全く意味を為さない世界になってしまったら――?

この作品で示されたのは、そんな未来です。
忘れてしまうこと、忘れられてしまうこと、存在の痕跡が綺麗に消えて
しまうこと――それは、生きる意味を根底から揺るがすような恐怖であり。それでいて、喪失の痛みのない安息でもあり。

それでも。僕はこの作品を読んで、先ほど申し上げたような人の在り方が、とても尊く感じられました。それが叶わないことを、本当に怖いと思いました。
自分よ、爪痕を、遺せ――そんな感情でいっぱいです。

……雑多な書き方になってしまいましたが。読み終えた瞬間に伝えなくちゃという衝動に支配されるような、深く刺さる作品でした。
ぜひ、この感覚を多くの方に味わっていただきたいと思います。

その他のおすすめレビュー

市亀さんの他のおすすめレビュー116