かくして<僕>は遺伝子から解き放たれる

 <私>と<僕>の対比が魅力的です。こういう視点で描いた作品はちょっと他に思い浮かばなかった。
 <私>とは汎用人工知能にプログラムされた基礎人格であり、<僕>はそれを開発した科学者。汎用人工知能とは早い話が人間並みかそれを越える判断力を持つAIで、あらゆる分野で高度かつ正確な判断を行えることから汎用、と呼ばれています。AI開発の一つの到達点と言われていますね。
 <僕>はこの<私>に対し自己の人格を複製する。
 自己の人格がAIと混じり合うというのはなかなか想像がつかないと思います。その意味で読み応えのあるシーンです。

 その後、なぜ<僕>がAIに人格を融合させたのかが語られるのですが、ここでリチャード・ドーキンスの言葉がフックとして効いてくる。これが物語をコンパクトに収めていて、本当にうまいなぁと感じさせられました。

 苦悩する自我が解放され、新たな世界に一歩を踏み出す緊張と興奮。
 <僕>が目覚めたその先が、真に自由な世界であってほしい、そう感じました。

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