幼女さんは今日も『調合』を駆使して異世界を楽しみます!

Mei

第1話 プロローグ

「ふわぁ…………。今日の仕事がやっと終わった」


 私ーーー橘葵たちばなあおいはパソコンから顔を上げ、くるくる回転する椅子の背もたれに身を預け、大きく伸びをしながらそう言った。


「これで明後日のプレゼンテーションまでにどうにかなる…………」


 明後日は新商品の開発についてのプレゼンテーション。今回は私が担当することになった。


 入社してからもう7年。私はずっと商品開発部に携わっており、このプレゼンテーションも何度となく繰り返してきた。その度に夜遅くまで家で資料作りに励むのだ。


 はあ……。もう嫌だ…………この仕事から解放されたらどんな気分になるだろう。


 私の現在の年齢は37歳。定年退職まで後23年は残ってる。60歳から自由になったところでやりたいことなど出来やしない。ただひたすら死が来るのを待つだけだ。やりたいことと言えば…………。


「異世界に行ってみたいなあ…………」


 自由な旅、魔法。滅茶苦茶憧れる。


「……まあ、そんなのは無理なんだけど」


 現実はそんなに甘くない。こうしている間にも明後日のめんどくさいプレゼンテーションは刻々と近づいてくるのだ。現実とは非情なものだ。


「…………やめやめ。こんなこと考えたって仕方ないじゃん……」


 私ははあ……。と再度溜め息をつきながら、資料を保存してそのページを閉じ、ゲームを起動させた。


「パスワードは……と」


 私はパスワード欄にパスワードを打ち込んだ。その下のアカウント名も打ち込み、ログインボタンをクリック。






Welcome to GLO!







『GLO』ーーー通称グランディールレベリングオンライン。MMORPGだ。


「さてさて……今日はどうしようかな~」


 調合のスキルレベルを上げるか、クエストで金稼ぐか、はたまた転職を目指すか。選択は多種多様だ。


 転職はその職業レベルが一定値を満たせば可能だ。何に転職出来るかは人それぞれだ。勿論転職先は自分で選べるが、数も限られる。全ての中から選べるわけではないのだ。


「……よし、今日は調合のスキルレベルを上げよう」


 そうと決まればまずはレベル上げだ。レベルをあげることによって、SPーースキルポイントが溜まり、スキルを取得したり、スキルのレベルを上げたりできるのだ。レベルが1上がるごとに大体8~10のスキルポイントを得られる。


「さて……と依頼は……」


 レベル上げのついでに依頼もこなす。そうすれば金も稼げる。一石二鳥、よし、これでいこう!


 私がGLO内の冒険者ギルドにて依頼を物色しようと、掲示板にアバターを近づけてクリック。するとーーー。







『異世界へ転生する』








 

 普通なら、依頼が沢山画面に表示されるのだが……この一つしか表示されなかった。


「………………? 運営のトラブル? それともイベント?」


 確か今のイベントは『雪花』ってやつを集めて……その集めた数に応じて報酬がもらえるってやつだったよね?


 雪狼を倒すと入手することのできる素材、『雪花』。期間限定で、イベント終了まであと3日。因みに私は、『雪花』を集めに集めまくった結果……イベント開始の二日後には全ての報酬をゲットした。


 …………イベントにしても、こんな依頼があるわけがない。ということは、間違いなく運営のトラブルだろう。


 私のカーソルを持っている手は震えた。その依頼にカーソルを合わせたり、外したり。


 勿論、何やってんだ私……という自覚はある。しかし、しかし……だ。もし、これをクリックして、仮に異世界に行けたら…………。


 私はそんな妄想をし、喉をゴクリと鳴らす。押すか、押さないか、私が選んだのはーーー。


「…………試してみよう」


 私はその依頼をクリック。しかし、特に変化は無かった。


「はぁ…………やっぱりね……そんな都合の良いことなんてあるわけないか……」


 さあ……てと。依頼も受けられないみたいだし、魔物の討伐だけして『調合』のスキルレベルを上げようかな。


 私がアバターを動かそうとした瞬間、突然目眩が襲ってきた。


 あ、あれ…………? 力が入らない…………?


 私は次の瞬間視界が暗転し、意識を失ったのだった。




 


 


 








 

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