第13話 さあ、行こっか!(即決)

「ふぅ…………」


 間に合って良かった。あと少し杖が折れるのが早かったら、爺さんが危なかった。…………あの盗賊、死んでないよね? 一応、剣に魔力まとわせて、斬れないようにしたけど…………とりあえず、お縄についてもらおう。


「『捕縛』」


 剣をしまい、魔法で太いひもを編み上げ、グルグルッとまとめてひと縛り。これだけ多いと、どこかにアジトでもあるかもしれないね。


「……………………」


 っていうか、爺さん腰プルプルしてるけど大丈夫かな? 抜けた?


「あの、大丈夫ですか?」


「あ、ああ…………助けてくださって、ありがとうございます………」


 呆然としつつも、礼を言う爺さん。


「腰は………?」


「…………腰? いや、別に、なんともありませんが…………それにしても、あなた様は相当お強いようですな。あの盗賊を一撃で…………。もしや、高名な冒険者ですかな?」


「いや、冒険者登録はしてないです」


 あの魔窟に入れと? 無理。冒険者カード発行してる間に何かあったらたまったもんじゃない。


「そうですか…………もったいないと思いますが…………」


 爺さん、沈黙。ほっとけ。…………一人にするのもあれだし、送ってった方が良いよね?



◇◆◇◆◇


 私は翌日、領主の城に行く事になった。今日はとりあえず、宿で一休み。経緯としては…………



「助けてもらってそのままというわけにもいきませんので…………報酬を受け取って頂きたいのですが………城までお越し頂けないでしょうか?」


「行きます!!」


「お、おお………」



 こんな感じ。 


 

 金の匂い。ふへへ………。


 私は宿のベッドに埋もれた。金が手に入れば、どうにかなる。ちょっとしたATM…………こほん、バンクだよね。うん。


 どうやらあの爺さん───チャートと名乗っていた────は領主の執事的な感じの人だったらしい。いやー、助かって良かったよ。目の前で人が死ぬとか見たくないし。



「そういえば、プレゼンテーション、どうなってんだろ…………」


 私がまとめあげたプレゼンテーション。私が転生したから、発表することは叶わなかった。


「………まあ、いっか!」


 これが俗に言うざまあ!ってやつ? ちょっと良いかも。仕事から解放された私。フリイィィィダムッッッ!!


「ふぁあ……………眠くなってきた」


 外もすっかり日が落ちている。松虫いないからピーとか聞こえてこない。さいこー。


 私は程なくして眠りに落ちた。




◇◆◇◆◇


 翌日。馬車が早朝に迎えに来たので、欠伸と共に乗り込んだ。勿論、目立った。当たり前じゃん。一般人の往来にこんな豪奢な馬車が来たら、そりゃあ目立つよっ。


「…………そうだ、薬師ギルドのことも聞いてみよっと」


 馬車に揺られながら、そんなことを考える。いくら神出鬼没と言えど、流石に領主なら何か知ってるでしょ。これでやっとに薬師ギルドの情報が掴めるっ…………!


「ユナ様。到着しました」


 馬車の扉を開け、御車さんがそう言った。私はぼんやりとしたまま馬車から降りる。寝起きだからね、ついでに言うともっと寝てたい。…………近いなら、馬車必要ないじゃん! 数分しか乗ってないよ? 無駄な注目浴びただけ。…………はぁ、疲れた。


「では、ここからは我々が案内いたします。付いてきてください」


 衛兵さんにそう言われ、私は大人しく付いていく。


 っていうか、今更思ったんだけど、街に雪は積もってないんだね。ふっしぎー。お陰で馬車もスーイスイだった。………この服で大丈夫かな…………。



◇◆◇◆◇


「うわぁ…………」


 見たことのない装飾。広い廊下。赤………いや、白い絨毯。凄い迫力。


「っていうか、こんなに広いと移動にも一苦労だわ………」


 そんなことを考えながら衛兵さん達に付いていくと、やがて、扉が見えてきた。


「奥でお嬢様がお待ちしております、どうぞ、中へ」


 ちょっ、心の準備させて─────! むなしくも開く扉。奥には────お嬢様らしき人が椅子に座っていた。近くにはメイドさんがいた。生メイド、感動っ!


 中にはソファが二脚。間にテーブルを挟むようにして置かれている。客間かな?


「我が家までご足労くださり、ありがとうございます」


 椅子から立ち、丁寧に挨拶する色の良い金髪に銀色の瞳。穏やかそうな雰囲気を醸し出している。私よりも背が高い。綺麗な人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る