第10話 偶々
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ…………そ、それよりも、リ、リエルが………!」
すぐ近くで血を流して倒れている少年─────リエル君を一瞥して震えたようにそう言う男性。
…………あの出血量じゃ、早く処置を施さないと死んじゃう。高い効能の回復薬が必要。魔法があるとはいえ、回復魔法は使えないし…………今から素材を採ってきてる暇もない。あの人達が、性能の高い回復薬を持っているとは思えない。街で売ってるのだって、粗悪品ばっかりだしね。
「すいません、この中で、『モチック草』と『メルールの花』、それと『ボウジの根』を持ってませんか!」
「そ、それなら私が持ってますが…………いったい何を?」
リエル君の側にいた女性がそう声を上げた。
「今から回復薬を作るんです!」
「い、今から回復薬を!? ま、間に合いませんよ!! 最低でも、作るのに二十分以上はかかります! それじゃ、リエルが、リエルが…………!」
「私を信じてください!」
そう言うしかない。初対面の相手を納得させられるだけの物を持ち合わせていないから。そして、一刻を争う。お願い…………!
懇願する私。その思いが届いたのか、女性は覚悟を決めたように目を閉じた。
「………………分かったわ、あなたを信じてみる」
ふぅ…………良かった。ここからが正念場だね。
私は、女性からアイテムを受け取り、早速『調合』を開始。ただ『調合』のスキルを使うだけだから、大して時間はかからなかった。こうして出来たのは、『回復薬(高)』。まあ、現状の材料だったら、これが限界かな…………。
「う、嘘………速い………!?」
驚く女性。他の人達も目を見開いていた。
私は、すぐさまリエルのもとへ。
「う、ううぅ…………」
苦痛に表情を歪めるリエル。…………早く楽にしてあげないと。
私は少し顎をくいっと上げて、気道を確保。少しずつ飲ませてやる。すると─────。
「す、凄い…………あれほど酷かった傷が………!」
少しずつ傷口がふさがり、出血が止まる。リエルは気が緩んだのか、そのまま意識を落とした。
「ふぅ…………良かった。間に合った」
私は助けられたことに、安堵の息をついた。
◇◆◇◆◇
「ここが俺達のテントだ。狭くてくつろげないかもしれんが、入ってくれ」
男性に促され、私はテントに入る。
あれは…………魔物避けの魔石。まあ、森の中にテント構えるんだったら、これぐらいないと駄目だよね。
テントの上に設置された魔石を見て、そんなことを思った。
「俺はフォウグという。改めて、俺達を助けてくれてありがとう」
男性─────フォウグさんは頭を下げてそう言った。黒の短髪にがっちりとした体つき。
「貴女がいなかったら、今頃私達は全滅してたわ。本当にありがとう。私はセルルよ」
女性──────セルルさんはそう言って微笑んだ。薄黄色のロングヘアーにフワッとした感じ。可愛い。私もあんな大人になりたい。……………転生する前までは大人だったけど。童心に返り始めてる? …………まあいっか!(全然良くない)
「私はユナです」
「ユナちゃん、ね…………それにしても、さっきの調合の腕前。凄かった」
そんなに褒められるような腕前だったかな…………。私としては、『回復薬(極)』を作りたかったくらいだけど…………。
私が視線を前に向けるとパーティーメンバー同士で話し合っていた。私に内緒で秘密の話? ちょっと混ぜて欲しいな、私も。ねえねえ。
暫くして、セルルさんがこっちを向く。そして、一言。
「─────ユナちゃん、私達のパーティーに入らない?」
─────私の心、通じちゃった?
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