第9話 『おぱんつ、それは男の夢』
翌朝、今日は入学式。
スマホのアラームで目覚め、止めるためにスマホに手を伸ばす。
時刻は5時30分、カーテンを開けて陽の光を部屋に入れる。
洗面台へ行き、顔を洗い歯を磨く。
キッチンでコーヒーを淹れ、ソファで6時まで休憩。
これが俺の朝のルーティンだ。
昨日は、『風呂でばったり鉢合わせて裸見ちゃいました〜!』みたいなイベントはさすがに起きなかった、というか起こさないようにした。
めちゃくちゃ見たかったけどね。
さすがの愛姫さまもブチギレよ、多分。
そのあと、二人でソファでくつろぎながら学校のことを少し話してから就寝した。
愛姫の部屋からどすどすとまるで枕を殴っているような音が聞こえたけど、なんだったんだろう……。
あと、寝る前にキスを思い出して悶えたのは言うまでもない。
「ぬっはぁ!」
くそ、また思い出したせいで悶えて朝から変な声出たじゃねぇか。
そういえば、愛姫が昨日『わたしの気持ちを分かってない』とか言ってたけど、なんだったんだろう……?
もしかして俺のこと好き、とか?
いや、やめとこう。勘違いして振られでもしたら恐ろしい。
愛姫は小学校の頃、告白してきた男子とはその後一切会話しなかったからな……
それが俺の身にも起こらないとは限らないし。
そうこうしているうちにテレビの左上に映る時間が6時になったのを見て、行動開始。
まずは洗濯なのだが、洗濯機に洗濯物を放り込んでいた時、早速問題が発生した。
「これは……!」
洗濯ネットに入れるために手に持った―――
「愛姫の……ぱんつ……!」
愛姫のぱんつが俺の手から離れてくれないのである。
だから両手で広げるのも、決して俺の意志ではない。ぐふふふふ。
ていうか愛姫こんなえっちなぱんつ履いてんの!?
黒のレース、しかも透けてるし!
まさか……さ、誘ってんのか……!?
愛姫がこのぱんつを履いて誘惑してくるって―――
『春奈になら……いいわよ……?』
「ぶはぁっ!」
は、鼻血が…………!
俺はその場にしゃがみ込んで、ぱんつを片手で持ち空いた手で鼻を抑える。
これは危険だ、危険過ぎる!
このぱんつ、とんでもねぇ殺傷力を持っていやがる!
くそ!これ以上持っていては俺の心も身体もダメになっちまう!
さぁ!春奈よ!早く離すんだ!その手からぱんつを離せ!
……おい!なんでだ!
ま、待てって!何故ぱんつが顔に近づいてくる!?
何故だ!?俺はぱんつを離さなければいけないのに……!
ああ、ダメだ……!それ以上近づけたら!
言うことを聞け!俺の右腕!
やめ、やめろおおぉぉぉ―――
「あ、春奈おはよう」
「ひゃんっ!?」
突然背後から声をかけられて変な声を上げてしまった。
と、咄嗟に手に持っていた愛姫のぱんつをポケットにしまう。……おい、黙れ息子よ。
「なによ、変な声だして」
「ベベベベ別に?なんでもないし?」
愛姫の方を振り返る。
昨日の夜も見たけど、愛姫のパジャマって意外と乙女なんだよね。
昔っからそうなんだけどさ。これがまた可愛いから罪だよね。
ってか髪の毛ボサボサなのになんでそんなに天使なの?モヒカンでも似合うんじゃない?
「…………ふーん」
なんか含みのある返事だけど……バレてないよな?大丈夫だよな?
「ま、いいわ。顔洗うからどきなさい」
「お、おう」
愛姫に退くように言われたので立ち上がって少し端に避ける。
まぁ、俺がどかなくても洗面台くらい使えるはずなんだけどな。
ともかく、バレてないようで良かった。
愛姫が洗顔終わったら大人しく洗濯しよう……。
ざ、残念とか思ってないからな!?
「ねぇ、春奈」
どこか楽しげな声で突然しゃがんだ愛姫が言う。
「ん?」
「これ、なぁに?」
と、愛姫が満面の笑みで立ち上がって、黒いぱんつをひらひらさせて見せてくる。
「はっ!」
それは俺のポケットに入ってたはずじゃ……!
そう思って咄嗟にポケットに手を突っ込み確認するが―――なくなっていた。
しかし、その行為が愛姫に確固たる証拠を与えてしまった。
「へぇ……やっぱりあんたのポケットに入ってたのね」
愛姫がゴミを見るような目で俺の心にダメージを与える。
きゅんきゅんして鼓動が速くなって負担が大きくなる、という意味でのダメージだけど。
「な……ッ!は、謀ったな!」
「『謀ったな!』じゃないわよ!どの口が言ってんのよ!そもそもあんたがポケットに何か入れたところから見てたし、あんたが立ち上がった瞬間に落ちてきたんだから丸わかりよ!」
愛姫が声を張り上げる。
「うぐ……ッ!だ、だけど俺は何もしてない!お前から来てびっくりしたからポケットに仕舞っただけだ!」
「はぁ……そもそもポケットに仕舞うのが問題なんだけど……」
愛姫が呆れたように呟く。
「仕方ないだろ!男の夢を簡単に手放せるか!この気持ちがお前には分かんないって言うのか!?」
「分かりたくもないわよ!そんな変態思考!」
「そこにぱんつがあれば地獄の果てまで追いかけるのが男なんだよ!」
「うっさい!黙れ変態!」
「ぁはん!」
イイよ!その罵倒、すごくイイ!
「…………まさかとは思うけど、変なことしてないでしょうね?」
愛姫が目を思いっきり細めて睨んでくる。
「へへへ変なことなんてそんな!嗅ごうとしただけ―――あ」
あ、嗅ごうとしてたって自白しちゃったわ。てへ。
と、愛姫の顔が怒りと羞恥で真っ赤に染まっていき、肩がわなわなと震えだす。
「あんたねぇ……」
「あぁ神よ、迷える仔羊を救いたまえぇ……」
「やっぱり嗅ごうとしてたんじゃない!」
「ぁふん!」
愛姫が俺の首筋に思いっきり噛み付いてくる。
そういう容赦のないところまじかっけぇっす。痺れるっす。
……ってか痛くね?昨日より痛気持ちいいんだけど?
「ちょ、えっ、本気で噛みついてる!?ねぇ!ちょっ!痛い!俺、愛姫に食べられちゃう!むしろ食べて!」
というと、愛姫が噛むのをやめて俺から離れる。
「変な言い方するんじゃないわよ!……ったく、あんたにはこれくらいしないと罰にならないじゃない」
「え、今のって罰だったの?ご褒美じゃなかったの?」
あんなに気持ちよかったのに罰なんて、ちょっと愛姫は甘いんじゃないか?
「なんのご褒美よ!……まぁいいわ、とにかく洗濯続けなさい。今後は洗濯する前の下着には必要以上に触らないこと」
触らないこと、か……。要するに触らなきゃいいんだろ?なら―――
「……眺めるのは?」
と聞くと、愛姫から一切の表情が抜けて、凍てつくような冷たい視線が俺の心を穿つ。
「……それ以上変な事言ったら二度と口聞かないから」
「Yes,ma'am!」
ちくしょう、嗅ぎたかったなぁ…………
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