第10話 『外ヅラ』

 


 そのあと、洗濯機を回して朝食をとり、適当に一時間ほど待ってから干す。

 弁当がいらないのでいつもより楽だった。

 ちなみに干してる最中は常に愛姫に監視された。

 もしかして視姦ですか?ありがとうございました。




 そして入学式だが、特に何もなく終わった。

 まぁ、どこの入学式も似たようなものだろうが、有難いお話とは果たして誰にとって有難いのだろうか?


 と、校門の前でそんな事を考えて愛姫を待っていると、背後から俺の名前を呼ぶ声がした。


「よ、園部」


「ん?」


 声のした方へ振り返る。

 少し長めの坊主頭に、185cmを超える長身にイケメンオーラを纏った男。


「おー、俊太か。また同じクラスだったな」


 田辺俊太たなべしゅんた、俺と中学三年間同じクラスだった友達。

 正直中学の時はこいつ以外とはあまり話していない気がする。


「おう。ま、今年もよろしくな」


 そう言ってにこっと笑う俊太。


「ちっ、入学早々イケメンスマイルするんじゃねぇよ」


「おいおい何言ってんだ。顔だけ・・ならお前の方がイケメンだろ?」


 顔だけ……ね。強調すんのね、そこ。

 ふ、ふふ、ふふふ、こいつ……!


「……なら性格は?」


「人見知り過ぎて友達が少ないやつがそれを聞くのか?」


「俊太ァ……!」


 憎悪の篭った視線をプレゼントする。

 こいつは俺とは対照的に社交的で人気者だ、バカだけど。

 ま、言われた通り俺は人見知りなんだけど。


「春奈くーん」


 そこに笑顔の愛姫が小走りでやってくる。

 完全外用フェイスだ。10匹……いや20匹くらい猫かぶってると思う。

 女って怖いよね。


「帰ろう?」


「はぁんっ!」


 ぬはぁぁぁぁぁ!!

 はぁ、はぁ、その笑顔は犯罪だろうが……!


「ん?なんだ?」


「なんでもねぇよ!あー、愛姫、帰ってから色々買いに行くんだよな?」


「そうだよ」


「えーっと、園部、誰?」


 と、話について行けない俊太が俺に尋ねる。


「あー、幼馴染の水ノ宮愛姫、最近うちの近くに引っ越してきたんだ」



 ちなみに、俺と愛姫の関係は学校ではただの幼馴染で通すことにしている。

 わざわざ義理の姉弟きょうだいと言う必要もないし、かと言って他人で通す必要もないので、面倒を避けるために公には言わない事にした。

 かと言って絶対に話してはいけないわけでもないので、バレてしまったり仲の良い友達に言うのは良いってことにしてる。

 そんな友達俊太こいつくらいしかいないんだけどね!



「あーー!この人がお前が言ってたすむごぉ」

「黙れ小僧!」



 何やら不穏な雰囲気になってきたので、咄嗟に俊太の口を塞ぎ、美輪○宏もびっくりなモノマネで黙らせる。

 多分俺が愛姫のことが好きだということは、愛姫は気付いてると思う。ていうか絶対に気付いてる。

 だけど言葉では言わないようにしている。

 もし振られたら―――そう考えると恐ろしくて言えない。



「今度なんか奢るから」


 なので、俊太を黙らせるために、愛姫には聞こえないように取引を持ちかける。


「何してるのー?」


 愛姫が笑顔のまま聞いてくる。


「ちょ、ちょっとじゃれてただけだよ。な?俊太」


「ん?あぁ、そうだなぁ」


 くっそ、ニヤニヤしやがってこいつ。

 取引は成立したみたいだが、こいつに弱みを握られてる状況は決して良いとは言い難いな……


「……そうなんだ。あ、同じクラスだったよね。水ノ宮愛姫です、よろしくね?」


 愛姫がキラキラした笑顔を俊太に向ける。


「ぁふぅ!……お、俺は田辺俊太、よろしく」


 あ、俊太こいつもやられたみたいだな。

 咄嗟にキメ顔作って自己紹介しやがった。

 だけどよ、変な声出した時点でカッコつけても無駄だぞ。


「てかよ……園部の幼馴染がこんなに可愛いわけがない……!」


「可愛いなんて、そんなことないよ〜」


 俊太が俺と愛姫を見比べながら言った。失礼な。

 あとなんで愛姫はドヤ顔でチラチラこっち見んの?


「ふむ…………俺としては、あやせもイイけど、どうしても桐乃たんを応援したくなっちゃうんだよね」


「は?何言ってんだよ園部。黒猫一択だろうが」


 ……こ、こいつ……!一択だと……!


「お"?お前にはあの罵倒やツンの裏に隠れた可愛さが分からないみたいだなぁ!」


「お前こそ!俺は……!黒猫に幸せになって欲しいんだ……!」


 と、俊太の目に涙が浮かぶ。


「お前……そこまで黒猫のこぁふん!」



 いっっっでぇぇええ!!!

 愛姫さん!?そこ昨日も踏みましたよね!?

 ヒールじゃないだけ良いけど、そのローファーも痛いからね!?

 ってか多分ヒビ入ってるんだからもうちょっと労ってくれないかな!?


「黒猫のこぁふん?」


 俊太には見えてないのかよ!どんな足癖してんだよ愛姫は!


「二人とも何話してるの〜?」


 愛姫が笑顔で聞いてくる。

 ねぇ、何で背後に般若の霊みたいのがいるの?

 ぷっ、もしかして話に入れなくて寂しかったの?可愛いじゃん、ぷぷっ!


「んぅう!」


 と、考えていると、愛姫が笑顔を崩さずもう一度俺の足を踏み抜く。


 もう無理だから!次は折れちゃうから!てかまだ折れてないのが奇跡だから!


「ど、どうした園部」


「…………」


 俊太に聞かれたので、どう答えようかと笑顔のままの愛姫の方をチラッと見る。

 あ、まだ般若さんご存命なんですね、分かりました。


「…………

 ……なにも‼︎!な"かった……‼︎!」


「どこの三刀流だよ」


「鷹の目に鍛えられたアイツだよ」


「鍛えられる前だろそれ。俄か乙な、園部」


「貴様ァ!」


「…………」


「ひぃっ!」


 俊太とバカげた話をしていると、横から物凄い殺気を感じ、思わず悲鳴をあげる。

 ちら、と横を見れば相変わらず笑顔の愛姫がそこにいた。


「さ、帰ろ?春奈くん」


「…………お"え」


 腹いせに、その猫を被った姿に嗚咽を漏らしてやるが、


「あ"?」


「ご、ごほん!」


 愛姫が俺の嗚咽を聞き、こっちを見て真顔で脅してくるので、咳払いで誤魔化す。

 怖いよ、マジで。きゅんきゅんしちゃうよ。


「そうだな、俺もそろそろ……じゃあな、園部と水ノ宮さん!」


「じゃーな」


「また明日!」


 スマホで時間を確認した俊太がそう言って走っていくのを見て、俺と愛姫も帰路へついた。

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